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どん底に落ちた男を救った「自宅バー」の人脈

ライフ・マネー 投稿日:2017.03.29 17:00FLASH編集部

どん底に落ちた男を救った「自宅バー」の人脈

『写真:長田洋平/アフロ』

 

 自らの経営判断のミスで地獄を見た男。窮地を救ったのは、人脈作りのために自宅で開いていたバーだった!?

 テレビドラマで見るような「劇的」な出来事は、世の中にそれほどあるわけではない。しかし相川賢一さん(41)の身に起きたことは、まさにそれだったのである。

 

 相川さんは学生時代から起業精神が旺盛だった。IT企業に勤めていた24歳のころから、東京の水道橋に借りていた自宅マンションの3部屋のうち2部屋を人脈形成のため、バー風に改装し、「民家バー」と称していた。

 

 民家バーにはITや広告関係者などさまざまな人が夜な夜なやってきてたむろする。みんな勝手に冷蔵庫を開けてビールを飲み、500円払うというようなシステムだ。そこで名刺を交換し合うとともに、仕事の情報を入手していたのである。

 

「民家バーの人脈作りのおかげで、26歳のとき独立して『アイソフト』というウェブシステムを作る会社を立ち上げました。ITバブルの波に乗って会社は順調に業績を伸ばし、従業員も10人を超えるほどになった。仕事は、ほぼすべてバーに来たお客さんがらみで得たものでした」

 

 31歳のときだ。順調だった仕事の規模を縮小して、インターネットサービスの新規事業にかけた。結果は散々だった。借金の山と自己嫌悪だけが残った。

 

 バーの常連が持ってきてくれた米や商品券などと、後に妻となった彼女の世話でなんとか食いつないだが、借金の取り立ては厳しく、もう限界だと思った。

 

 そして、取り返しのつかないミスをした自分を責めるあまり、死ぬしかないと思いつめた。集団自殺がはやっていたころで、自殺志願者のサイトに、練炭を持っていくと書き込んだ。しかし、相川さんは約束の日に決められた場所へ行けなかった。練炭を買う金がなかったし、それ以上に「勇気」がなかったのである。

 

 母親からも借金をしていて、実家の中華料理店を継ぐ以外に道はなかった。帰る前の週の金曜日、たまたまIT企業を経営する先輩から、接待のため7、8人で行くから、料理と飲み物を頼むと電話が入った。民家バーでもてなす最後の客だと思い、腕によりをかけて料理を作った。

 

「取引先が帰って、先輩だけが残りました。『相川くん、今夜はありがとう。みんな喜んでいたよ。でも君、ちょっと元気がなかったけど、どうかしたの?』。そう聞かれて事業の失敗や借金のことなどを話し、『来週埼玉に帰るので、今後会えなくなるかもしれません』。そう言ったら『早くからITをやってきた君が、中華料理店をやるのはもったいないよ。明日から一緒に仕事をしよう』」

 

 信じられない思いで翌日先輩の会社へ行くと、「当面いくら必要なんだ」と聞かれ、200万円ぐらいあればなんとか食いつなげると答えた。すると「じゃあ、ここで250万円の請求書を書いてくれ。週明けすぐに振り込むから、それでなんとかしのいでくれ。それは貸すのではなく500万円のプロジェクトの手付金として払うので、その仕事をやってほしい」。思いがけないことになった。

 

「捨てる神あれば拾う神あり、です。仕事は通販サイトのリニューアルで、いろいろなシステムを作りました。残りのお金も欲しかったので、とにかく一生懸命やりましたね。その仕事の成果が評判を呼んで、それで、いろいろな会社から仕事が来るようになり、がむしゃらに働いて借金も全部返すことができました」

 

 41歳のとき、相川さんは水道橋駅の静かな路地に建つ4階建てのビルを購入した。10年間頑張った結果を形にしたのだ。

 

 3、4階を自宅に改築し、1年ほど前に1階で洒落た「NEW民家バー」をオープンした。パーティにも最適な隠れ家風カフェバーの雰囲気だ。

 

「IT事業とバーはセットです」と言うように、人脈形成のためのバーはその後も続けてきた。子供ができてからはバーだけ恵比寿、そして赤坂と移り、また自宅に戻ってきたわけである。

 

「どん底を経験した人はみんな明るいと思います。どんなときでも、あのときよりましだと思えるんですから。経験はしないほうがいいとは思うけど……」

 

 IT関係はケンタッキーフライドチキン、銀座ルノアール、京樽など外食系企業の仕事で順調だし、インターネットを利用した英会話学校を運営し、また、増える訪日外国人の集客や接客など、インバウンドビジネスにも積極的に取り組んでいる。

 

 50歳までに事業のめどをつけて後継者にまかせる。そして「学生時代のようにバックパッカーになって、自由に海外旅行を楽しむのが夢」。そう言って相川さんは、聞く者までつられて笑ってしまうような独特の笑い声を上げた。

(週刊FLASH 2017年4月11日号)

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