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医師83人に聞いた「僕がガンになったらこの先生に診てもらう」

ライフFLASH編集部
記事投稿日:2016.08.19 13:00 最終更新日:2016.08.19 17:28

医師83人に聞いた「僕がガンになったらこの先生に診てもらう」

写真:田村翔/アフロ

 

「『名医は誰か』なんて安易すぎます」

 

 いきなり言われてしまった。発言の主は、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之教授だ。

 

 医療不信の機運が高まるなか、プロの医師が推薦するガン治療のエキスパートは誰なのか。本誌では現場の医師にアンケートを実施。83人から回答を得た。勝俣医師も名前が挙がった一人だが、「安易」とはどういうことか。

 

「マスコミは、ガンをとかく『治る』『治らない』で区切りたがる。ですが、世界は『ガンと共存する』時代になっているんです」

 

 勝俣医師は、日本に1000人弱しかいない抗ガン剤専門医(腫瘍内科医)だ。従来のガン治療は外科医が中心で、手術ありき。そして、臓器別に専門が縦割りである。その点、抗ガン剤の専門医はガンを横断的に診ることができる。

 

「各臓器の専門医が抗ガン剤を使うより、腫瘍内科医が扱ったほうが安全性も高く、高い効果が得られる。しかし、『抗ガン剤は毒』『体がぼろぼろになる』といった誤解も根強い。腫瘍内科医は非常に少ない。国から補助金をもらっているがん診療連携拠点病院ですら、まともな抗ガン剤治療を受けられない ところがある。そんな現状を変えるのが、我々の課題です」(勝俣医師)

 

 第一線に立つ勝俣医師は「日本に腫瘍内科医は5000人は必要だ」と言う。

 

「医師のミシュランガイド」を事業展開するクリンタル代表の杉田玲夢氏は、東京大学医学部附属病院眼科から経営コンサルタント業に転じた変わり種だ。そんな杉田氏が挙げたのが、NTT東日本関東病院の寺谷卓馬・ラジオ波治療センターセンター長。肝臓ガンラジオ波焼灼術分野を牽引する。

 

「ラジオ波とは、AMラジオなどの周波数に近い、周波数約450キロヘルツの高周波のことです。腫瘍の中に直径1.5mmの電 極針を挿入し、ラジオ波電流を流すと、発生させた熱で病変は固まり、まもなく死滅するのです」(寺谷氏)

 

 寺谷医師が注目を集める理由は、一般的なラジオ波の適応を超えた大きさの肝臓ガンや、転移性肝臓ガンにも治療を積極的におこなっているからだ。

 

「たしかに、エビデンス(根拠)がまだ少なく、認知度も低い。合併症の頻度が上がるリスクもあります。しかし、手術ができない、抗ガン剤が効かないと宣告された患者さんに『何もしないのも手です』と平気で言えますか。学会で報告もしており、ネットで成績も見られます。今後5~10年で一般的な治療法になるという確信のもとに治療をおこなっています」(前出・寺谷氏)

 

 ラジオ波治療は横浜市大や昭和大、埼玉医大にも広まりつつあるという。

 

 前出の杉田氏が挙げたもう一人の「診てほしい医師」が、同じくNTT東日本関東病院の内視鏡部部長・大圃(おおはた)研医師だ。

 

 いま、男性の大腸ガン罹患者が急増し、社会問題になっているが、大圃医師は大腸ガンの内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剝離術)の症例数で日本一を誇る。その腕は、「人工肛門しかない」といわれた患者を4、5日で社会復帰させるほど。従来は専門が分かれる胃、食道、大腸の3つを一人で治療することができる。

 

 大圃医師は、現在の内視鏡治療をこう見る。

 

「内視鏡や腹腔鏡は、手術をおこなう人によって大きな差があります。技術の習熟が必要ですが、水準に達していない医師も少なくない。ある医療機関では安全にできるが、別の機関では厳しい。『やってみたい』というだけで、経験の少ない医師が難度の高い手術をおこなう例はたしかにあります」

 

 大圃医師は、そうした技術格差の解消に尽力している。後輩医師の手術には積極的に立ち会い、海外での技術指導にも熱心だ。取材の当日も、中国への出張だという。

 

 地域医療に貢献している医師も、しっかり名前が挙がった。湘南外科グループの髙力俊策医師は、東京西徳州会病院の渡部和巨病院長を挙げた。内視鏡手術や日帰り手術もいち早く手がけ、年間1000例以上を執刀した経験を持つ。院長に就任した現在もメスを握る。

 

「私の専門は食道ガン、肺ガンで、乳ガンの乳房温存手術にも早くから取り組んできました。そして、小さな痔の手術もおこなってきた。医療の世界はいまやなんでも『専門』。私のような一般外科医としては、現在の過剰な分業制は妙な気がしています。

 

 目の前の患者さんに全力を尽くす。医師というものは、ただ、それだけでいい。 『手術は受けるな』とか、何十年も使われてきた薬が『服用してはいけない』と突然悪者にされるケースが増えています。医療者と患者の間から『本当の信頼関係』がどんどん失われてきているような気がします」

 

 若い医師には「医局にいるな、患者さんと話せ」と声をかけているという。

 

 小島達自・行田総合病院副院長は、地域の高齢者医療の最前線に立ちながら、疼痛(とうつう)治療や緩和ケアにも取り組む稀有な整形外科医だ。小島医師が語る。

 

「整形外科の扱うガンには、骨肉腫などの原発性骨腫瘍と、脂肪肉腫などの原発性軟部悪性腫瘍、それに転移性骨腫瘍があります。

 

 こうしたガンは抗ガン剤や放射線治療が効きにくく、仮に効いたとしても、体を支持する組織である骨・軟部腫瘍は骨折したり、組織が欠損してしまうことも多いのです。よって、手術による切除と再建術は避けられない治療法と考えています」

 

 四肢の骨・軟部腫瘍を専門とする医師は少なく、地域の医院から相談や紹介が絶えない。

 

「日本の現状を考えると、整形外科医も緩和ケアの問題が重要になってきます。緩和ケアとは、抗ガン剤や遺伝子治療、ホルモン剤などを使わず、痛みで苦しまずに最期を迎えられるようにする療法。手術の症例数のように数値化できるものではないですが、地域医療にとって大事なことだと思っています」(同)

 

(週刊FLASH 2016年8月2日号)

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