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【数字は踊る】駅のホームで「歩きスマホ禁止」納得の理由

連載FLASH編集部
記事投稿日:2016.08.31 12:00 最終更新日:2016.09.26 14:49

【数字は踊る】駅のホームで「歩きスマホ禁止」納得の理由

山手線にもまだ未設置駅が

 

●電車遅延による乗客の被害

 

 電車利用の人なら誰でも、人身事故による電車の遅延を経験したことがあるだろう。

 

 人身事故の場合、警察の検分を含め運転再開まで1時間以上かかり、時には重要な商談や会議に遅れることもある。最近は携帯電話で連絡が取れるからまだいいが、飛行機や新幹線は待ってはくれない。

 

 怒りの矛先を向ける相手もなく耐えるしかないのだが、乗客がこうむる時間的被害の総額を試算した研究がある。

 

 東京の中央線快速の場合、事故のあった時間によって額は異なるが、たとえば17 : 00に発生したとすると、時間的損失額は約1億1930万円にもなる(「駅プラットホーム危険度評価表の作成」早稲田大学・須賀晃一研究会)。

 

 一方、人身事故による鉄道事業者の経済的損失も大きい。車両や線路に損傷がなければ振替輸送費や人件費などですむが、それでも数百万円になる。損害は原則、遺族に請求される。

 

 2007年に愛知県大府市で起きた91歳の認知症老人による線路内立ち入り事故では、監督不十分として妻と息子がJR東海より訴えられた。名古屋高裁は妻に対し約360万円の支払いを命じたが、認知症の介護問題として話題を集めたので、ご記憶の方も多いだろう(最高裁ではJR東海の逆転敗訴)。

 

 自殺や転落などプラットホームでの事故は近年増加しており、首都圏においては鉄道トラブルの最大要因となっている。国土交通省によると、2014年度に起きた鉄道事故全758件のうち、449件が人身障害事故であり、そのうちの約51%がホームからの転落や列車との接触によるものだった。

 

●2種類のホームドア

 

 プラットホームでの人身事故を防ぐ有効な手段として登場したのがホームドアだ。現在一般化されているホームドアは、天井までの高さのフルスクリーン型と、大人の胸の高さほどの可動式ホーム柵の2種類である。

 

 理想はフルスクリーン型だが、構造上駅舎そのものを造り替える必要がある。その点、可動式ホーム柵は、旧来の駅でも土台がしっかりしていれば設置が可能である。

 

 ではその効果のほどはどうか? スクリーン型のホームドア設置駅は100%、可動式ホーム柵設置駅では90%、人身事故を防いでいる。

 

 国土交通省は「10万人以上の利用者のある駅ではホームドアの整備を実施する」ことを通達しているが、ホームドアの設置が進んでいるとはいえない。なぜだろうか?

 

 いちばんのネックは設置費用だ。東京の山手線は29駅あり、2020年までに全駅に可動式ホーム柵を設置する予定だが、費用は概算で約550億円、平均すると1駅約19億円かかる。

 

 ホームドアの場合、列車のドアとホームドアの位置を一致させなければならない。そのために、従来の列車を新車両に変える必要が出る場合もあり、より費用がかさむ。

 

 国土交通省によると2016年3月末のホームドア設置状況は、 計665駅だ。ホームドアのないホームは危険である。歩きスマホなど、もってのほかだ。

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