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天皇陛下の「お気持ち」表明から見えた「天皇の神髄」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.08.10 11:00 最終更新日:2016.08.23 15:42

天皇陛下の「お気持ち」表明から見えた「天皇の神髄」

写真:AFLO

 

 大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、天皇陛下の「お言葉」について洞察する。

 


 

 

 2016年8月8日、天皇陛下が国民に対し、ビデオメッセージでお気持ちを述べられた。

 

「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には、平成30年を迎えます。私も80を越え、体力の面などから様々な制約を覚えることもあり……」と、体力面での不安からお話しが始まった。

 

 その後、天皇とは何かを象徴するお言葉が登場する。

 

「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ました……」

 

 国事行為や式典への出席など、天皇陛下の仕事は数多くあるが、その根本にあるのは、祭祀であり、祈りの心である。

 

 鎌倉時代の順徳天皇(1197~1247)は『禁秘抄』という著作を残したが、その中に「禁中(宮中)の作法は、先(ま)ず神事、後に他事とす」と記されている。

 

 つまり、何よりもまず神事を最優先にしなさいということだ。朝夕、神々に祈り、神々を敬い、国家国民の安寧を祈念することは、天皇陛下にしかできない。

 

 では、具体的にどのような祭祀があるのか。陛下が臨む祭祀は年間30回を超えている。これを列記してもしょうがないが、1月だけで6つもある(以下の解説は宮内庁のサイトによる)。

 

●1月1日

・四方拝(早朝に天皇陛下が神嘉殿南庭で伊勢の神宮、山陵および四方の神々をご遙拝になる年中最初の行事)

・歳旦祭(早朝に三殿で行われる年始の祭典)

●1月3日 元始祭(年始に当たって皇位の大本と由来とを祝し、国家国民の繁栄を三殿で祈られる祭典)

●1月4日 奏事始(掌典長が年始に当たって、伊勢の神宮および宮中の祭事のことを天皇陛下に申し上げる行事)

●1月7日 昭和天皇祭(昭和天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。夜は御神楽がある)

●1月30日 孝明天皇例祭(孝明天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典)

 

 天皇陛下のもっとも重要な神事は、11月23日夜から24日未明におこなわれる新嘗祭だ。その年の新米などを皇居・神嘉殿(しんかでん)に供える祭祀で、午後3時から午前1時ごろまで延々続くという。

 

 特に重要なのは午後6時からの「夕(よい)の儀」と午後11時からの「暁の儀」で、同じ内容のものを2時間ずつおこなう。

 

 祭祀の間、陛下は硬い畳の上に座ったままで祈りを捧げる。もちろん、座布団も暖房もない。

 

 宮内庁は、陛下が75歳を迎えた平成21年以降、「暁の儀」のお出ましを30分間に短縮した。平成23年からは「夕の儀」でも短縮する予定だったが、この年はご病気で、陛下がお出ましになることはかなわなかった。

 

 平成26年からは、「暁の儀」へのお出まし自体を取りやめている。

 

 陛下が75歳になった平成21年、昭和天皇の74歳時点と比べて、どの程度公務が増えているかというデータが公表された。

 

 それによると、外国賓客らとの会見などは約1.6倍、大使の拝謁などは約4.6倍、お出ましは約2.3倍に増加しているという。陛下のご負担は、我々の想像以上なのだ。

 

 平成21年からご臨席行事での「お言葉」を原則取りやめるなど、宮内庁は目立たない形で陛下の行事を減らしている。だが、伝統の継続を重視する天皇陛下が、それをどう感じていたのかはわからない。

 

 前述のように、陛下のもっとも重要な仕事は、「国民の安寧と幸せを祈ること」だ。

 

 しかし、宮内庁が作成した子供向けのサイト「宮内庁キッズページ」(天皇陛下はどんなお仕事をなさっているの?)には、「国事行為」「式典出席」「魚類の研究」といった項目はあるが、「祭祀」の項目は存在しない。

 

 皇室の伝統と歴代天皇の想いが込められた「祭祀」の項目こそ一番に掲げるべきなのに、これはいったいどうしたことか。

 

 本当に情けないことだが、天皇陛下のお気持ちを最も理解していなかったのが、実は宮内庁だったのではないか。

 

 これは私見だが、陛下は、最も重要な祭祀を宮内庁が簡略化しはじめたことで、生前退位を強く意識されたような気がする。今回の陛下のお言葉から感じ取るべきは、その点、つまり宮内庁の祭祀への無理解ではないかと私は思っている。

 


(著者略歴)

濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

 1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数

 

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