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ヤクザのケンカ「相手の力量」を推し量る「虚々実々」の舌戦

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.09.05 06:00 最終更新日:2016.09.06 01:34

ヤクザのケンカ「相手の力量」を推し量る「虚々実々」の舌戦

 作家・向谷匡史氏の近著『ヤクザ式 最後に勝つ「危機回避術」』(光文社新書)から、喧嘩の要諦を公開しよう。

 私たちは、「逃げる」をカッコ悪いことと思ってはいないだろうか。

 勝てるからケンカする、負けるからしない──という、ご都合主義の処し方は蔑(さげす)まれる。危機を察知して早々に体(たい)をかわせば卑怯者と呼ばれる。これが日本人のメンタリティーだ。

 

 だから、玉砕が胸を打つ。

 

「かくすれば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ大和魂」と、押さえがたい情熱に殉じた吉田松陰の歌に惹かれる。私もその一人だ。

 

 だが、「逃げる」を卑怯とするのは、大義を貫く場合であって、日常の処し方にそれを当てはめるのは間違っているのではないか。日々刻々と襲ってくる大小さまざまな危機に対して、その一つひとつに玉砕覚悟で臨むようでは、大事はなせまい。

 

(ヤバイ!)

 

 と判断すれば逃げるのだ。卑怯でも何でもなく、これはトラブルに身を置くときの基本である。

 

 たとえば、ヤクザのケンカ。ヨーイドンで、いきなり殴り合いになることは少なく、虚々実々の舌戦で相手の力量を推し量る。

 

「この野郎!」

「やるのか!」

「てめぇ、どこの人間だ」

 

 相手を値踏みして、「ヤバそう」──となれば、「悪かったな。なにもそんなつもりじゃなかったんだ」と、さっさとシッポを巻くか、「お互い、縁続きみてぇだから、ここは気持ちよく呑もうじゃねぇか」と、相手の顔を立てつつドローに持っていく。

 

 大義がなく、しかも勝ち目のない相手とケンカするのは何の意味もないからだ。日常的に危機と二人三脚で暮らすヤクザは、さすがに思考が柔軟で、現実対応力に秀でているのだ。

 

 ところが一般市民はそうではない。危機に遭遇することが少ないため、「男は退いてはならない」と理想の概念でとらえている。逃げることをカッコ悪いと思ってしまう。さっさと逃げればよさそうなものを、やけっぱちになって飛びかかっていく。勝てればいいが、ヘタすりゃサンドバッグ。ボロ雑巾にされてしまうことだろう。

 

「ヤバイと思ったら逃げよ」と説くのは、人気タレントのガッツ石松氏だ。元WBC世界ライト級チャンピオンで、武勇伝は数知れずという「ケンカのプロ」でもある。そのガッツ氏に取材したとき、ケンカの要諦について、こんな名言を口にした。

 

「来るならこんかい戦車隊。来たら逃げるぜ航空隊」

 

 どういうことかというと、「来るならこんかい!」と戦車隊を率いる気概でバーンと威嚇する。それで相手が恐れ入ってくれればよし。「上等じゃねぇか!」と居直って攻めてきたら、「逃げるぜ航空隊」で素早く離陸し、スタコラサッサと退却。

 

「被害者」として交番に駆け込めば、あとはお巡りさんが処理してくれる──というのがプロのケンカ術だと説明してくれた。ガッツ氏の言葉には、「逃げるのはカッコ悪い」といった軟弱なヒロイズムは微塵(みじん)もないのだ。

 

著者・向谷匡史(むかいだにただし) 

 1950年生まれ。広島県呉市出身。拓殖大学卒業。週刊誌記者などを経て、作家。浄土真宗本願寺派僧侶。保護司。日本空手道「昇空館」館長。 著書は『会話は「最初のひと言」が9割』『ヤクザ式 一瞬で「スゴい!」と思わせる人望術』(以上、光文社新書)、『ヤクザ式 ビジネスの「かけひき」で絶対に負けない技術』『ヤクザ式 ビジネスの「土壇場」で心理戦に負けない技術』『決定版 ヤクザの実戦心理術』(以上、光文社知恵の森文庫)、『怒る一流 怒れない二流』(フォレスト2545新書)、『仕事も人生もうまくいく人間関係「間合い」術』 (草思社)など多数。

 著者ホームページ:http://www.mukaidani.jp


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