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広島スカウトマンが語る秘話「黒田博樹には後光がさしていた」

スポーツ 投稿日:2016.09.05 12:00FLASH編集部

広島スカウトマンが語る秘話「黒田博樹には後光がさしていた」

「初めて見たとき、後光がさしとりました。ああいう体験をしたのは原辰徳と黒田博樹だけです」

 

 広島のスカウト総括部長、苑田聡彦氏は黒田との出会いをそう振り返る。

 

「黒田が専修大2年のときでした。私の選手の見方はまずバランス。走り方やユニホームの着こなし。バランスのいい選手いうのは怪我も少ないもんです。その選手の実績、有名か無名かは関係ないんです」

 

 苑田氏は1964年から1977年まで広島で内野手として活躍。引退後スカウトに転じ、無名だった江藤智や金本知憲、嶋重宣などを発掘、入団させてきた。

 

「当時は黒田しか目に入らんかったです。いつも全力で、よく走る。それにあの負けん気の強さ。打たれた相手に次の打席でもう一度同じ球で勝負する。

 

 打たれた後ベンチで下向いてるようじゃいかんのです。選手はプレーだけじゃなく、ベンチでの表情も大事。打たれたのをほかの選手のせいにするようなのは、絶対獲りません」

 

 1996年11月のドラフト、逆指名2位で黒田はカープに入団する。

 

「ほかの人がいいと言っていたとかは、関係ない。自分がいいと思ったら、とことん選手に惚れ抜くことです。それで見えない力が見えてくるんです」

 

 今年2000本安打を達成し、黒田とともにチームを牽引する新井貴浩は1998年のドラフト6位。じつは「コネ入社」ならぬ「コネ入団」だった。

 

「正直、プロじゃ……というレベルですよ。当時は駒沢大の先輩の大下剛史がヘッドコーチだったので、そういうツテでね。それに駒大の監督が私にこう言ったんです。『あいつは技術は三流。でも体力だけは超一流です』と。

 

 実際、プレーはひどかったけど、練習は誰よりやりました。それに飯をよく食った。朝飯は1時間食い続ける。超一流の体 力と、ひたすら猛練習することであそこまでの選手になったんです」

 

 ハーラートップを走る野村祐輔は、明治大から2011年ドラフト1位で入団。

 

「私が気に入ったのは投げた後。普通はすぐにアイシングしますが、野村はトレーニングしてた。試合後も走る。全日本に選ばれてアメリカ遠征に行くとき、知り合いの記者に頼んで見ててもらったんです。そしたらやっぱり試合後は走ってると。『よし、いける』と思った。プロのきつい練習に耐えてどこまで成長できるか。グラウンドだけ見とっても、それはわからんでしょう」

 

●菊池涼介は忍者に見えた

 

 いまや球界を代表するセカンドとなった菊池涼介を担当したのは、東海地区を担当する松本有史スカウトだった。

 

「あっ、ニンジャがいる! 最初に見たときそう思いました。驚きました」

 

 当時、菊池は中京学院大の1年。

 

「とにかくあの守備。足も速い。肩も強い。打撃練習ではほとんど柵越え。パンチ力もある。三拍子どころか四拍子揃っている。プロでもトリプルスリーが狙える選手だと思いました」

 

 惚れたのはプレーだけではない。

 

「大学時代、練習後にパチンコ店でアルバイトをしていたんです。家庭の事情もあったと思います。そのぶん、お金の大事さは身にしみてわかっていると思いますし、大人の礼儀も身についたはず。強豪校ならバイトなどありえません。人間性も間違いないということは周囲の話からもわかりました」

 

 今季、不動の守護神として君臨する中?翔太。だが九州・沖縄担当スカウトの田村恵氏が注目したのはその「キューピーちゃん体型」だった。

 

「高校のときから体は大きくて、フォームは理想的でした。でもそれほど球速が出ない。3年のときに138km。いまどきの高校生じゃ物足りない。

 

 でも、彼が着替える姿をたまたま見て納得しました。手足が細くてお腹だけ出てる。赤ちゃんというかキューピーのような体型。つまりまだ全然筋肉がついていない。鍛えて筋肉をつければ、10kgは球速が上がるだろうと思った。大学か社会人に行けば、数年でドラフト1位になる素材だと思いました」

 

 中?が高3の夏(2010年、宮崎)は、口蹄疫の影響で無観客開催となった。

 

「中?の最後の試合を見たスカウトは私だけです。ほかの球団は完全にマークを外しました。でも私は中?の成長力を確信していたので、ドラフトでは『下の順位でもいいので絶対指名してください』と直訴したんです。結局、最後の6位で指名できました」

 

 中?の体型から「成長速度」を見抜いた田村スカウトの眼は確かだった。

 

 獲得資金に限りがある広島は、「成長する可能性」をより確実に見つけ出すことがスカウトに求められる。

 

「うちには松田オーナーが考案した『年齢別選手表』があります。チームに在籍する投手の左右、捕手、内野手、外野手を年齢別にしてある。これを見れば、どの年代にどういう選手が必要かが一目瞭然。

 

 特にうちはFAでよそから選手を獲ることをしないので、ドラフトでのバランスが必要。1位で競合するような選手を何がなんでも獲るというわけじゃなく、方針が決まっていているので、スカウトとしては非常にやりやすいんです」(前出・苑田氏)

 

 人間性、成長力を見抜くまで張りつくスカウト力。年齢バランスを考えたチーム編成。これが「神ってる」カープの原動力なのだ。

(週刊FLASH 2016年8月30日号)

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