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STU48瀧野由美子“山口出身であることの誇り”【ロングインタビュー「私の原点」③】
AKB・坂道FLASH編集部
記事投稿日:2022.08.29 17:02 最終更新日:2022.08.29 17:02
都会でなければアイドルにはなれない…。夢を諦めかけていた山口県の少女に訪れたチャンスがSTU48だ。グループ結成から5年たった今、かつての少女は八面六臂の活躍を見せている。精神的支柱となっているのは地元・山口への愛だ。その第3回。(取材&文・伏見 学)
山口出身であることの誇り
積年の夢を果たし、晴れてアイドルになった瀧野さん。STU48のデビューシングル曲『暗闇』でセンターに抜擢されたのを皮切りに、これまでにリリースされたシングル8曲中7曲でセンターを務める。この5年間の彼女の飛躍については説明不要だろうが、活動の支えとなっているのは地元だ。「瀬戸内にいられるからアイドルになった」という言葉に嘘偽りはない。それだけ瀬戸内、ことさら郷土である山口を愛している。仕事で都会に出てきても、すぐに地元に戻りたくなってしまうという。
「東京のホテルに一人でいるときなどは、勝手に悲しくなって、山口の星空が見たいな、実家に帰りたいなとホームシックになります」
地元は心身を癒やす場所でもある。無理がたたって体が悲鳴を上げる前にリフレッシュしようと山口に戻ることは少なくない。今ではそれが彼女のワークスタイルに組み込まれている。
「無理しすぎていいことはないから。もちろん(仕事である以上)無理をすることもあるけど、やりすぎて自分を壊す前に、いったん立ち止まることが大事。このままいくとちょっと危ないなと思ったら、実家に帰って一度リセットします」
そんなときは、仕事が終わって最終の新幹線で山口に帰ることもしばしば。新山口駅まで迎えに来てくれた家族とあんこ(瀧野家で飼っている犬)に会うと、一瞬でスイッチがオフに切り替わる。クルマの中ではすっかり山口弁になり、家族との会話を楽しんでいる。
アイドル活動を続けるモチベーションとなっているのはほかにもある。田舎からでも夢はかなうのだということを、同じような境遇の人たちに伝えたいからだ。
「アイドルになりたいという夢を抱き続けていたから、山口出身でもこうしてなれました。実際には、なりたくてもなれないものや、やりたくてもやれないことはいっぱいあるけど、だからといってすぐに諦めるのではなくて、一回挑戦してみることは大切です。自分で諦める理由を作らない限り、夢を追い求めていいんじゃないかな」
山口にいたら今世はアイドルになれないと思っていた。それが覆されたことで、より一層、郷土へ尽くしたいという気持ちが高まっている。ささやかだが、こんな成果も出ている。
「写真集を山口で撮影したんですけど、ファンの方が“聖地巡り”をしてくれたり、県内のいろいろな駅で貼っていただいている私のポスターを見に行ってくれたり。ちょっとだけ山口の観光に貢献できているかもしれません」
瀧野さんが好影響を及ぼしているのは、外から来たファンにだけではない。地元の人たちも活躍を喜んでいる。
「高校の後輩のコが『先輩の頑張っている姿を見ると、私も頑張らなきゃという気になります』とレギュラー番組にお便りを送ってくれたことがあります。また、実家で犬の散歩をしていると、近所のおばちゃんに、『すごく応援してるよ。由美子ちゃんがテレビに出るときは夜遅くても起きているし、正座して見ているよ』と言われて本当に嬉しかったです」
山口のためにも、どんどん積極的に前に出ていかねばと気を引き締める。
「山口のたくさんの方々に知っていただくことで、私が県外で活動したときに、地元のコだからと、もっと注目してもらえるはず」
それは瀬戸内全体の盛り上げについても同じだ。
「私やSTU48のメンバーが地域の魅力などを発信することで、瀬戸内の人たちに地元っていいところなんだとあらためて気づいてもらいたいです。実際、今まで以上に瀬戸内出身であることを口に出すようになった人もいます。私たちの活躍が地元の自慢につながれば」
これは瀧野さん自身も同様である。以前よりも山口出身であることを誇りに感じるようになった。そして、これからは山口を背負っていく存在になりたいと明言する。自分が活躍することで、多くの人が山口に目を向けるきっかけになれば、地域に根ざしたアイドルとしては本望だ。
ただし、山口がもっと盛り上がることは嬉しいが、失ってほしくない風景もある。
「山口には高いビルやタワー、大きなショッピングモールはいりません。数分ごとにやってくる電車もいらない。昔ながらの車両が走っているところが山口の魅力だと私は思います」
「子供のころ横浜に住んでいたから都会も経験しています。横浜ってすごく便利だなと思っていたけど、山口に来て、私が求めているのはそっちではないことがわかりました。べつに街灯がなくてもいいし、近くにコンビニがなくてもいい。これからも山口は変わらないでほしいです」
高校時代、部活動が終わり、約30分に1本しか来ない電車に乗るために、暗がりの畑道を仲間たちと駅までダッシュする日々を送った。汗をかいて走る瀧野さんたちの頭上にはいつも煌々と星空が輝いていた。それこそが、彼女が守りたい山口の風景そのものだ。
故郷への思いを胸に秘めて、瀧野さんはこれからも自分が信じた道を生きていくことだろう。
取材&文・伏見 学