東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは、1986オメガトライブの『君は1000%』。カルロス・トシキの日本語のたどたどしさがよかったよねえ。
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マスター:もともとは杉山清貴&オメガトライブだったのは、ご存知のとおり。ただ、グループ内でいろいろあって空中分解してしまった。
お客さん:絶好調のなかでの不思議な解散劇だったよねえ。
マスター:杉山清貴はソロ活動を始める一方、オメガトライブを何とか存続させたいと思っていた事務所の社長が、ライブハウスで見つけてきたのがカルロス・トシキだった。
お客さん:いい出会いだったねえ!
マスター:日系ブラジル人のカルロスは、日本で歌手デビューを目指していたんだ。
お客さん:そして新たに誕生したのが1986オメガトライブで、第1弾が『君は1000%』だったんだね。
マスター:そう、『新・熱中時代宣言』(日本テレビ系)の主題歌となった。その後も、『SuperChance』や『アクアマリンのままでいて』など、ヒット曲を連発したよね。
お客さん:いま、カルロス・トシキはどこで何をしているの?
マスター:実はいま、ブラジルで種苗会社に勤めていて、現在はニンニクの種子を生産する総責任者だというよ。
お客さん:それはまた意外な転職だね。
マスター:ブラジルは気候的にニンニクの栽培に適さなかったんだけど、国産ニンニク種苗の開発に成功し、今や国内シェアほぼ100%を誇っているという。
お客さん:日本では1000%! ブラジルでは100%! 成功しているって話を聞くと嬉しいね。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:TOKYOMX『ミュージックモア』(2019年10月26日)/富澤一誠『J-POP名曲辞典300曲』(ヤマハミュージックメディア)