「以前はね、女優になろうと一生懸命だったんですよ。女優として必要とされたいって。いまは肩の力が抜けてきたかな。樹木希林さんに憧れます。あのようなお婆ちゃん役を演じたい」
老け役なんてまだ早いのでは--。尋ねてみると、「だって希林さんは30代からお婆ちゃんを演じてたでしょ」と有森。たしかに、かつては北林谷栄や菅井きんら、若い時分から老け役専門の女優がいた。
「森光子さんの舞台『放浪記』にも、ずっと出させていただいたので、そんな “女の一代記” みたいな作品にも憧れます。でも、4K・8Kの時代。映画やドラマでは若い役は、ほかの女優さんにまかせないとね(笑)」
有森はこまつ座の『頭痛肩こり樋口一葉』での主演など、作品数こそ少ないが、舞台劇でも活躍してきた。そして2019年は、同じこまつ座の『化粧二題』で初のひとり芝居に挑んだ。
かつて渡辺美佐子が演じた井上ひさし作『化粧 二幕』の改題版で、大衆演劇一座の座長にして、息子を捨てたトラウマを抱える母親に扮した有森。ついに代表作と呼べる作品に巡り会えた喜びを、訥々と語った。
「私の役者人生の一生分くらいあるんじゃないかな、と思えるほど台詞が多い(笑)。言いづらい台詞もあったけど、それがキャラクターの特徴を、もっとも表わしているんです」
有森演じる女座長は、物語の山場となる母子再会の台詞稽古に勤しむなかで、次第に母の素顔を見せる。その演技には、有森自身の家庭事情も、いくらか滲んでいた。
「私は今も独身で、子供もいません。芸能界デビュー後は、両親も長らく別居し、家族という形を体感していなかった。それがプライベートでは、自己肯定感のなさにつながったかもしれない。
でも、演じるなかで家族を吸収してきた。しかも、いろんな角度で、それができた。これは、いくらお金を出しても得られない経験。なによりの財産です」
有森の両親の別居には理由があった。神主の家に生まれた父は横浜での事業に失敗し、母と娘を残して佐賀に戻り、神社を継いだ。以来30年以上も、父母は離婚せず、別居生活を貫いた。
「2人の奇妙な関係を眺めるうち、『自分も結婚に不向きかも』と思っていたかもしれないですね。でも私、ひじきの煮物にパンにポトフ、餃子やハンバーグ……得意料理も豊富で、いつでもお嫁に行ける準備はできてるのにな」
そう微笑んで、低温でじっくり何度も揚げ、肉汁を蓄えさせたささみのフライドチキンを、おちょぼ口でパクッ。喜ぶ瞳に、星が飛び散った。
ありもりなりみ
1967年12月10日生まれ 神奈川県出身。中学3年のころ、ファッション誌の専属モデルとなり、1986年、『キネマの天地』でヒロイン役に抜擢され映画デビュー。『NHK短歌』に司会としてレギュラー出演中。2020年12月には、劇団民藝+こまつ座公演『ある八重子物語』(三越劇場)に客演予定
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取材&文・鈴木隆祐
写真・野澤亘伸
ヘアメイク・目崎陽子
(週刊FLASH 2020年8月18・25日号)