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緒形拳さん十三回忌…俺が、俺が、の“我”を捨てて生きた人生
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.10.21 11:00 最終更新日:2020.10.21 11:00
2020年、十三回忌を迎えた俳優・緒形拳さん。12月6日まで横浜市歴史博物館にて、企画展『俳優 緒形拳とその時代ー戦後大衆文化史の軌跡ー』が開催中だ。同展で展示されている貴重なオフショット、緒形さんの手による絵、書、陶芸作品にまつわるエピソードを紐解いていこう。
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「緒形は生前、『演じることは、どこかで演じないことに通じると思う。そして(役に対しての)“思い”はあるけれど、何もしない。僕は、そんな役者になりたい』と言っていました」
そう話すのは、緒形拳さんの最後の担当マネージャー。企画展を眺めながら、緒形さんの在りし日の姿を語ってくれた。
「自分に厳しく、そして周囲にはふところが深い方でした。けっして相手を否定しない。意見を言われてもじっと耳を傾けます。そして受け入れることは受け入れる。でも、自分の生き方にそぐわないときは自分を貫いていました。
口癖のように言っていたのは『俺が、俺が、の“我”を捨てて、おかげさま、おかげさま、の“げ”で生きる』でした。謙虚に生きるということなのでしょう」
役作りにも、とことんこだわり、突き詰めていたという。
「演じる役に関する本や資料は、ほとんど読んでいました。東海大学が、御遺族に依頼されてご自宅を整理していたら、役作りのために読んだ蔵書が約4000冊もあり、驚きました。その多くが天井裏にあったのですが、『よくまあ、床が抜けなかったものだ』とみんなで驚きました」
俳優業だけにとどまらず、ドキュメンタリー番組などにも積極的に取り組んだ。
「『旅というのは、本当のものが見えてくる』と、サハラ砂漠など世界各地に行きました。『ずっと演劇という虚構の世界、フィクションで生きてきた。ドキュメンタリーは実の世界、ノンフィクションです。その両方を行ったり来たり中庸でいること、そのバランスがいい。過去でもなく、未来でもなく、今を生きたい』と語っていました。
スペインのバスクでロケをしたときのことです。動物を大切にする緒形が、『長く生活をともにしたウスタ(牧羊犬)がさあ、別れのときに、俺が乗る車をずっと追いかけてきたんだよ。日本に連れて帰ろうかと、本気で悩んだよ』と涙を浮かべていたことを思い出しました」
今回の企画展には、愛猫をモチーフにした絵も展示されている。緒形さんは個展を開き、書画集を発行するなど、絵、書の分野でも才能を見せた。
「オフの日はよく、自由気ままな猫を眺めていて。そのときの幸せそうな笑顔は、忘れられません。
絵や書は、師匠と呼べる人はいなくて、みずからが好きだった書家の榊莫山先生や、洋画家の中川一政先生、須田剋太先生らに学んでいたようでした。仕事の合間に、集中して作品に向き合っていました。ですが、芸術家に見られることには、強く抵抗していました」
今回の企画展を取りまとめた、東海大学教育開発研究センターの馬場弘臣教授は「今回は、ただ遺品を展示するということではなく、緒形さんの活動を振り返れば、日本の大衆文化の流れやメディアの変遷を知ることができます」と、その意義の大きさを語る。
映画、ドラマで数々の名演技を遺した「俳優・緒形拳」。今回の企画展でもわかる素顔の「人間・緒形拳」は、絵や書を嗜み、猫を愛し、周囲の“おかげ”を大切にする人だった。
亡くなって12年――。今もなお大衆に愛される理由が、そこにある。
【緒形拳さん略年譜】
・1937(昭和12)年:東京府東京市牛込区(現在の東京都新宿区)で生まれる
・1958(昭和33)年:辰巳柳太郎の弟子になるべく、新国劇入団
・1960(昭和35)年:映画『遠い一つの道』で、主人公のボクサー役に抜擢された。
・1965(昭和40)年:NHK大河ドラマ『太閤記』で主演。
・1966(昭和41)年:『源義経』でNHK大河ドラマに連続して出演。同年、新国劇所属の女優・高倉典江と結婚。
・1968(昭和43)年:新国劇を退団。以後、テレビドラマ、映画を中心に活動。
・1979(昭和54)年:映画『復讐するは我にあり』に主演し、同作がヒット。
・1983(昭和58)年:映画『楢山節考』に主演。同作はカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。
・2000(平成12)年:紫綬褒章を受章。
・2008(平成20)年:10月4日、自宅で体調が急変。手術を受けるも、翌5日、肝ガンのため逝去。享年71。10月31日、長年の演劇界への貢献を多とし、旭日小綬章が授与されることが発表された。
写真・(C)緒形事務所
※ 『俳優 緒形拳とその時代ー戦後大衆文化史の軌跡ー』は12月6日まで横浜市歴史博物館にて開催中
(週刊FLASH 2020年10月27日号)