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名曲散歩/南こうせつとかぐや姫『神田川』完成までわずか20分

エンタメ・アイドル 投稿日:2021.02.14 16:00FLASH編集部

名曲散歩/南こうせつとかぐや姫『神田川』完成までわずか20分

神田川

 東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。

 

お客さん:お、このイントロはかぐや姫の『神田川』。「ただ、あなたの やさしさが こわかった~」、日本フォーク史を代表する名曲中の名曲だね。

 

 

マスター:この曲は1973年にリリースされたんだけど、当時は石油ショックで街のネオンが消え、トイレットペーパーの買い占め騒動などがあった頃。

 

お客さん:全体的に暗く切ない曲調が、そうした時代とマッチしたのかもしれないね。

 

マスター:『神田川』を作詞したのは、当時ラジオの放送作家だった喜多條忠(きたじょうまこと)。まだ売れていなかった南こうせつが四谷にあった旧文化放送を訪れたとき、局内でものすごいスピードで原稿を書いている青年がいた。それが喜多條だった。「すごいスピードで書きますねえ」とかなんとかやり取りして、詞を書くことを依頼したという。

 

お客さん:なるほど。

 

マスター:実は『神田川』の誕生には “スピード” にまつわることが多いんだ。

 

お客さん:スピード?

 

マスター:ある日、こうせつはアルバム『かぐや姫さあど』に入れるための曲が欲しかったので、喜多條に作詞を依頼した。その締め切りがなんと!

 

お客さん:いつ?

 

マスター:「今日中」だって!

 

お客さん:どうかしている!

 

マスター:喜多條は頭を抱えながらタクシーに乗った。東中野のアパートに帰る途中、神田川を渡ったんだけど、その瞬間、数年前に3畳一間のアパートで彼女と同棲していた光景を思い出した。そのまま自宅で原稿用紙にタイトルを書き、ものの15分で仕上げたという!

 

お客さん:スピーディー!

 

マスター:そして、こうせつに電話をかけ歌詞を伝えた。メモを取り終わった1秒後、こうせつの頭の中でメロディができ上がったという。

 

お客さん:スピーディー!

 

マスター:その5分後、今度はこうせつから「曲ができたので聞いて」と喜多條に電話がかかってきた。

 

お客さん:スピーディーすぎるだろ! その天才同士のやり取りはなんなの?

 

マスター:当初はアルバムの中の1曲に過ぎなかったんだけど、こうせつがラジオで紹介したところリクエストが殺到。急遽シングルカットされ、150万枚のミリオンセラーになった。

 

お客さん:その後、喜多條とこうせつのコンビは『赤ちょうちん』『妹』などの名曲を世に送り出している。

 

お客さん:じっくり温めて名曲になるものもあれば、あっという間に作って名曲になるのもあるんだね。

 

 おっ、次の曲は……。

 

文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中

 

参考:金澤信幸『フォークソングの東京・聖地巡礼1968-1985』(講談社)/本橋信弘『60年代 郷愁の東京』(主婦の友社)/富澤一誠『フォーク名曲事典300曲』(ヤマハミュージックメディア)/朝日新聞2016年5月14日

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