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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『夜桜お七』を救った三木たかし先生の宣言「30万枚売れなければ、頭を丸めます」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.04.10 11:00 最終更新日:2021.04.10 11:00

【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『夜桜お七』を救った三木たかし先生の宣言「30万枚売れなければ、頭を丸めます」

『夜桜お七』の新曲発表会。左が歌人の林あまり氏。右は三木たかし氏

 

 坂本冬美が、歌手人生35年で生まれた「名曲」を語り尽くす、本誌連載がスタート。第2回のテーマは、『夜桜お七』だ。

 

 

 縁は異なもの味なものーーと申しますが……。猪俣公章先生がお亡くなりになったあと、新しい坂本冬美の出発の曲であり、わたしの代表曲となった『夜桜お七』を作曲してくださった三木たかし先生とのご縁を思い返すと、人と人とのご縁というのは、人智を超えたところにある不思議なものだなぁと思ってしまいます。

 

 

 あれは、猪俣先生との最後のお別れのときでした。花を一輪、先生のそばにそっと置き、列から離れると、「冬美、先生のそばにいてやれ」と、後ろから声がします。誰だろうと振り返ると、涙で顔を濡らした三木先生です。

 

 背中を押され、猪俣先生のそばまで行きましたが、人の波に押されたわたしは、再び外の輪の中に戻されてしまいました。するとまた、「冬美、先生のそばから離れるな」という三木先生の声が、今度は横から聞こえてくるのです。

 

 そのときは、崩れ落ちそうになる体をなんとか支えるのに精いっぱいで、そこまで深く気に留めていませんでしたが、もしかすると、これは猪俣先生が結んでくださったご縁なのかもしれません。ーー冬美を頼んだぞという。

 

 女流歌人である林あまりさんが、1カ月かけて書き上げたという『夜桜お七』は、江戸時代、火事がきっかけで恋仲になった寺小姓との再会を願って、町に火を放った八百屋のお七が、火刑に処せられるという激しくも哀しい物語……。

 

 しかも! お七ちゃんが処刑されたのは、天和3年3月29日。時を超え、わたしの誕生日が3月30日。これもご縁です。もしかすると、わたしは、お七ちゃんの生まれ変わりかも!? 想像の翼はどこまでも広がります。

 

 ♪チャ、チャ、チャ、チャラ……という妖しげな音から始まり、途中でいきなりテンポアップ。多くの皆様から、「あれは演歌というより、ロックだ!」と、言っていただける熱いメロディに、「早く歌いたい!」と、わたしの心も震えました。曲も詞も、もうこれ以上のものはない。これは、わたしが歌わなきゃいけない歌だ。その覚悟もありました。

 

 でも、しかし、です。わたしの思いとは裏腹に、周囲の反応はイマイチどころか、完全に拒否反応です。「坂本冬美を潰す気か!?」と、所属していた東芝EMIの社長さんを筆頭に、総スカン状態。お蔵入り寸前まで追い込まれてしまったのです。

 

 この窮地を救ってくれたのも、三木たかし先生でした。あろうことか、「30万枚売れなければ、頭を丸めて責任を取ります」と宣言。反対の声を押し切り、発売に向けて、舵を切ってくださったのです。素敵です。カッコいいです。ほんまに、ええ男やよぉ(和歌山弁ふうに)。

 

 結果30万枚を大きく超える大ヒットとなり、先生は頭を丸めずにすみましたが、もしかすると後で、「ちょっと言いすぎた」と後悔されたかもしれませんね(笑)。

 

 人と人が紡ぐ縁ーー皆様のまわりにも、きっと素敵なご縁がいっぱいあるはずです。なにかと息苦しい今日このごろですが、そうしたご縁を大切にしてください。縁を紡いで、幸せを感じてください。

 

 えっ!? 猪俣先生はどう思っているかですか? そうですねぇ。きっと、悔しがっていると思います。それも、ものすごく。三木先生に対して、「なんだよ、お前。こんないい曲を作りやがって」と、地団駄を踏んでいるはずです。ついでに、わたしにも、「歌は相変わらずイマイチだけど、こんないい曲を歌いやがって」と、睨んでいるかもしれませんね(笑)。

 

構成・工藤晋

 

(週刊FLASH 2021年4月20日号)

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