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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】茫然自失だったわたしに差し出された『風に立つ』自分への応援歌になった
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.04.17 11:00 最終更新日:2021.04.17 11:00
ーー頑張れ!
素敵な言葉です。力が湧いてきます。
目の前にそびえるのがどんなに高い壁でも、この言葉で励まされると、乗り越えられちゃいそうな気もします。
でも、だけど、しかし……。ときには、逆の効果を生むことだってあります。たとえばーー心が傷つき、軋むような悲鳴を上げているようなときは……。
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「これは、冬美のための応援歌だからな」
作詞家のたかたかし先生が、優しい眼差しで差し出したのが、この『風に立つ』(1999年発売)の詞でした。
猪俣公章先生がお父さんなら、デビュー曲『あばれ太鼓』をはじめ、『祝い酒』、『火の国の女』など、節目節目に詞を書いてくださった、たかたかし先生は……西城秀樹さんの『情熱の嵐』や、松崎しげるさんの『愛のメモリー』などの詞をお書きになった大先生には失礼ですが、わたしにとってはお母さん。ずっと見守ってきてくださった先生です。
当時のわたしは……突然の事故で父を亡くし、そのショックから精神的に不安定になった母のことを心配するあまり、体も心もボロ雑巾のように擦り切れ……今にも、心がポキッと音を立てて折れそうになっていました。
先生は、きっとそんなわたしの状態に気づいていらしたのだと思います。
「冬美、人生、いろいろあるけど、前を向いてやるっきゃないんだよ。だから、頑張れーー」
わたしを見つめる先生の目は、優しさに溢れていました。それなのに……。先生、ごめんなさい。当時のわたしは、その期待に応えることができませんでした。
心を乗せて歌うと歌えなくなっちゃうので、なるべく心を空っぽにして。辛辣な言葉を使うと、心ここにあらずーーという感じでした。
聴いてくださる方にも、歌手・坂本冬美のために頑張ってくれているレコード会社、事務所の方にも申し訳ないと思いながら、その日、その日を乗り越えるのに精いっぱいで。
「15周年で一度、リセットしよう」という、社長との約束を果たせるその日を目指して、カレンダーに「×」印をつけているような毎日を送っていたのです。
こんなわたしだから、言えることがあります。乗り越えられず、一度は逃げてしまったわたしだからこそ、わかったことがあります。
逃げてもいい。挫けたっていい。立ち上がれないほどボロボロになったら、もうそれ以上、頑張らなくっていいんです。
もう一度、自分を見つめ直し、そこからまた進むべき道に戻るのは、やめることの2倍も3倍も苦しいけど、戻ったとき、そこには新しい何かが待っているから。
わたしが、桑田佳祐さんに、『ブッダのように私は死んだ』を作っていただけたように。
おかげさまで、いろんな人生経験を積ませていただいたわたしにとって、『風に立つ』は、聴いてくださる皆様への応援歌であると同時に、わたし自身への応援歌。
いただいた曲はどれも思い入れがあるし、大切な曲ばかりですが、そのなかでも大切な一曲で、コンサートのラストで歌う曲になっています。
生きていれば、いろんなことがある。いい日もあれば、悪い日もある。つまずいたり、転んで膝小僧に擦り傷を作ることだってあります。
でも、それでも、わたしたちは生きていかなきゃいけない。人生、やるっきゃないんです。そうですよね!? たかたかし先生!
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋し てる』は社会現象にもなった。2020年11月にリリースされた桑田佳祐作詞・作曲『ブッダのように私は死んだ』が大ヒット中
構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年4月27日号)