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名曲散歩/村下孝蔵『初恋』島崎藤村とシーナ・イーストンを下敷きに

エンタメ・アイドル 投稿日:2021.04.25 16:00FLASH編集部

名曲散歩/村下孝蔵『初恋』島崎藤村とシーナ・イーストンを下敷きに

 

 東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。

 

お客さん:お、このイントロは村下孝蔵の『初恋』。誰もが自分の初恋に思いをはせる胸キュンソングの決定版だ!

 

 

マスター:1983年にリリースされた村下孝蔵の5枚目のシングル。実はこの曲、多くの “才能” が結集して作り上げられた。

 

お客さん:多くの才能?

 

マスター:まずは作詞の方から。そもそも『初恋』のテーマを発案したのはCBSソニーのプロデューサー須藤晃氏だった。彼が島崎藤村の『初恋』の話をしたことがきっかけになったという。

 

お客さん:「まだあげ初めし前髪の~」ではじまる詩だね。

 

マスター:2人で少年時代に好きだった子の話をしながら、具体的なキーワードを選び出し、村下が歌詞に落とし込んでいったという。

 

お客さん:なるほど、「放課後の校庭」という言葉なんか、まさに多くの人の共感を呼ぶワードだね。

 

マスター:そして編曲。『初恋』はもともとバラード調の重い曲調だった。それを編曲したのが作曲家の水谷公生氏だ。

 

お客さん:水谷公生といえば、河合奈保子の『ヤングボーイ』や西城秀樹の『ホップ・ステップ・ジャンプ』、シブがき隊の『ZOKKON命』などを手がけた作曲家だ。

 

マスター:編曲のヒントは1980年、世界的にヒットしたシーナ・イーストンの『モダン・ガール』だという。これを参考にして曲調をアップテンポに変えた。

 

お客さん:意外なところがヒントになったね。

 

マスター:バリピッチという再生速度を変えられる機械で、少しだけピッチとテンポを上げ、より軽い歌声に変えたそうだ。

 

お客さん:『初恋』の下敷きには、島崎藤村とシーナ・イーストンがいたわけだ。

 

マスター:ちなみに、村下孝蔵の本当の初恋の相手は鹿児島のお寿司屋さんに嫁いだ。昔、テレビでサプライズ対面していたけど、きれいな人だったよ。ただ、ご存じのように村下孝蔵は1999年、脳内出血で倒れ、帰らぬ人となった。まだ46歳の若さだった。

 

お客さん:本当に残念だった。

 

マスター:いま、生まれ故郷の熊本県水俣市の商店街『ふれあい一番街』には、『初恋』の歌碑が建立されている。そのストリート名も『初恋通り』に改名されたという。

 

お客さん:村下孝蔵がどんな風景を思い描いて創作したのか、その源流を見てみたいな。

 

 おっ、次の曲は……。

 

文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中

 

参考:『朝日新聞』(2016年9月24日)/朝日新聞be編集グループ『うたの旅人』(朝日新聞出版)/村下孝蔵『村下孝蔵詩集・初恋 浅き夢みし』(PHP研究所)

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