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浦沢直樹「ついに怪獣と決着をつける時がきた」…最新作『あさドラ!』で挑んだ“命題”とは?
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.04.30 11:00 最終更新日:2021.04.30 11:00
『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』――。時代を象徴するメガヒット作を世に送り出してきた漫画家・浦沢直樹が、『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載中の最新作『あさドラ!』をご存知だろうか。
敗戦後まもなく生まれた主人公・浅田アサは1959年、12歳のときに名古屋で伊勢湾台風に遭い、家族のほとんどを失うが、明るく力強く生きて、飛行機乗りという天性の才能を開花させる――。そんなアサの一代記を描く同作について4月28日、浦沢の公式情報ツイッターにひとつの「作品テーマ」が綴られた。
《子どもの頃からいつか描きたかった「怪獣漫画」に挑んだ》
作中では “アレ” と呼ばれる、巨大な生命体の “痕跡” がたびたび登場してきたが、4月30日に発売される単行本5巻で、ついにその全貌が明かされる――。
そこで今回はまず、1960年に生まれ、『ゴジラ』や『ウルトラマン』第一作をはじめ、日本怪獣史の黎明期を体験してきた浦沢に、「怪獣漫画」への思いを聞くことから、今回のインタビューは始まった。
「僕はちょうど、怪獣や特撮という文化と一緒に育ってきた世代にあたります。初代『ウルトラマン』が放送されたのが、6歳の頃だったんですが、2つ上の従兄弟が作中登場する怪獣をすごく怖がっていて。その彼に僕は、『でも最後の3分間でやっつけられちゃうから、怖くないよ』と言っていたのを、いまだに覚えています。
実際ほとんどの回で、30分弱の放送尺の最後3分でウルトラマンが出てきて、怪獣をスペシウム光線でやっつけていましたよね。『この予定調和は、さすがに子供を舐めすぎじゃないか』と当時から思っていました。ウラサワ少年は、“子供騙し” が嫌いなコだったんですよ(笑)。
なにしろ、僕は子供の頃から、自分がまだ生まれる前に制作された第一作めの『ゴジラ』(1954年)至上主義だったんですよ。核実験によって生まれた巨大怪獣が、ひたすら東京の街を破壊するという話の。ところが小学校2年生のときに観た『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』では、ゴジラに『ミニラ』という息子がいて、なんかそれが嫌でね。
同作に、ゴジラがミニラに炎の吐き方を教える “育児シーン” があるんですけど、そんなもの見たくないわけですよ。しかも、ミニラの鳴き声がどうも僕には『ママー! ママー!』って聞こえて、『おいおい、ゴジラってメスだったのかよ』と、何かがっかりした記憶があります(笑)。まぁ、これも怪獣映画に対する愛情の強さからくる、子供の行き過ぎた思いなんですが。
あとは今でも考えるんですが、『ゴジラ』みたいな巨大生物が現れたとき、つまり深刻な問題に対面したとき、果たして “ゴジラ” なんていうポップな名前をつけるだろうか? と。じゃあ実際、現れたとしたら、名前なんてつけている余裕もなく “謎の巨大生物” って言い続けるか……そういうところに、興味があるんです」
そこには、浦沢と同世代の作り手たちが、対峙し続けてきた「命題」があった。
「テレビや映画を観ていると『これじゃない……』っていう怪獣と、『これだよね!』っていう怪獣が出てきて、一喜一憂して。子供の頃に、そうやって怪獣をたくさん観て『どう描くのが、自分にとってベストなんだろう』と考え続けてきました。とくに当時、作り手になる資質を持った子たちは、その命題を一生抱えて生きているんじゃないかなと思いますね。
あの頃の男の子は誰もが、オリジナルの怪獣を絵に描いたりしてたんじゃないかなぁ。僕の4つ上の兄は、発泡スチロールとダンボール、茶色い紙袋なんかを駆使して、8ミリのカメラで怪獣映画を作っていました。
それから、庵野秀明さんは学年でいうと僕の1つ下にあたりますが、学生の頃に作られた自主制作の『ウルトラマン』で着陸しているジェットビートルを機体の下からカメラで撮影したり、『エヴァンゲリオン』では軒下から巨大な使徒を見上げたりと “人間目線” にこだわっていて、『そうそう、その感じだよね!』と思うんですよ。
だから庵野さんが『シン・ゴジラ』でやっていることを、同世代の作り手として、とてもシンパシーを感じながら観ていました」
そして、いよいよ浦沢にも、“そのとき” が訪れた。
「これまで『あさドラ!』を語る際、怪獣の存在を伏せて、読者のみなさんが出会い頭に体験する『何これ!?』というのを大切にしてきました。でも、もうそろそろ、いいかなと思いまして。
今はまだ、あの怪獣を “アレ” と呼んでいて、スティーブン・キングの『IT』と同じですね。名前は……決まっていません(笑)。もしかしたら今後の『あさドラ!』の作中で、名前をつける会議みたいなのが、あるかもしれませんね。
“アレ” は、子供の頃からずっと怪獣作品を観続けてきたけど、とても屈折した見方をしてきたウラサワ少年が、大人になるまで抱えてこんできたモノの集大成なんです。いつか決着をつけなければいけなかった、怪獣との関係の、ね」