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名曲散歩/渡辺真知子『かもめが飛んだ日』プレゼン会議の眠気を一発で覚ました
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.05.02 16:00 最終更新日:2021.05.02 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは渡辺真知子の『かもめが飛んだ日』。なんといってもこの豊かな声量!
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マスター:1978年リリースのデビュー2曲目、日本レコード大賞最優秀新人賞を獲得した。実はこの『かもめが飛んだ日』は、発売前から太鼓判を押された曲だった。
お客さん:太鼓判? ヒットが約束されたっていう意味?
マスター:そもそもデビュー曲の『迷い道』もそう。渡辺真知子自ら作詞作曲したこの曲ができたとき、業界人や音楽仲間があきれ顔で「こりゃヒットするわ」と言ったという。
お客さん:たしかに太鼓判だ。
マスター:そして2曲目の『かもめが飛んだ日』ができたとき、ソニーの制作会議にかけられたんだけど、そのときの反応がすごかったという。
お客さん:ソニーの制作会議?
マスター:毎週月曜日の朝、新しくできた曲をみんなで吟味する視聴会のこと。ただ月曜の朝だけに、参加者は寝ぼけ眼。しかも聞いたことない曲を次々聴かされるためウトウトする人もいたそうだ。ところが、『かもめが飛んだ日』がかかった瞬間、拍手が起きて「もう1回聞かせてくれ」とアンコールが起きたという。
お客さん:眠気を吹き飛ばす力があったんだ!
マスター:作詞は渡辺真知子ではなく、CMソングなどを多く手掛けた伊藤アキラによるもの。
お客さん:伊藤アキラといえば?
マスター:日立の「この~木なんの木』とか、サントリー赤玉パンチの「男には飲ませるなー」とか、ホテル三日月の「ゆったりたっぷりの~んびり」など数々のCMソングを作詞した大御所。
お客さん:ぜんぶ知ってる!
マスター:そんな超一流の作詞家に作ってもらった詞だけに、嬉しくて、嬉しくて、目を通した瞬間に、メロディーが湧き出てきたという。
お客さん:そりゃまたすごい! なによりインパクトがあるもんね。
マスター:ディレクターの要望で、「ハーバーライトが~」の冒頭2行を付け加えてもらい、そこに渡辺真知子が作曲していた別のメロディーをはめ込んで、あのインパクトある歌いだしが完成したという。
お客さん:編曲はあの船山基紀だしね。パズルのように組み合わせて、歌ができあがることもあるんだね。おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:『朝日新聞』2017年9月30日、船山基紀『ヒット曲の料理人 編曲家・船山基紀の時代』(リットーミュージック)