1989年6月24日に、52歳で惜しまれつつこの世を去った、“元祖国民的歌姫” 美空ひばり。2021年の命日には2枚のジャズアルバムのアナログ盤が発売されるなど、今なお彼女の歌声は愛され続けている。没後32年を経た彼女が現在、生前の活躍を見ていない若い世代から注目を集めているのをご存知だろうか。YouTubeにある美空ひばりの歌動画のコメント欄には、以下のような書き込みが並ぶ。
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《19歳です。この時代に生のひばりさんの歌声を聴けた方が本当に羨ましいです》
《まったく世代じゃないのに、美空さんの歌声を聴くと震えが止まらない 表現力のレベルが違い過ぎる》
《平成生まれですが、現代の歌姫と呼ばれてる方と格が違う》
没後に生まれた世代さえも惹きつけるものは何なのか。『ヒットソングを創った男たち 歌謡曲黄金時代の仕掛人』(シンコーミュージック)の著者・濱口英樹氏は、こう分析する。
「2020年秋に放送された『本当のとこ教えてランキング』(TBS系)の『本当に歌がうまい女性アーティスト ランキングベスト30』を声楽家が選ぶという企画で、1位だったのがひばりさんでした。昭和歌謡を扱う番組で、ひばりさんが出てこない番組は、まずないと言っていいでしょう。
歌謡曲番組は、地上波よりもBS・CSのほうが圧倒的に多く、ひばりさんの特集が2カ月に1度のペースで放送されているような状況です。そういう意味では、今もひばりさんの “露出” は非常に多いのです」
近年の、昭和歌謡を再評価する機運も影響しているという。
「平成生まれのタレントが昭和歌謡を熱く語る、という番組も今は多いですよね。ひばりさんは “昭和歌謡の原点” ともいえる存在ですから、若いタレントを通じて昭和歌謡に興味を持つと、いずれ、ひばりさんにたどり着くことになります。たとえばYouTubeなら、昭和歌謡の動画を見ていると、レコメンド機能(おすすめ動画)で、ひばりさんの動画が出てくるわけです。
2019年のNHK紅白歌合戦では『AI美空ひばり』が登場し、大きな話題になりましたが、それ以降も、ひばりさんの曲は毎年のように誰かがカバーして紅白で歌っています。そうしたところからも若者たちは、『過去の歌手だけど、アクティブな存在』として捉えているのかもしれません」
さらに重要なポイントは “画力(えぢから)” にあると、濱口氏は言う。
「たった一人で画面をもたせる圧倒的な存在感が、ひばりさんにはあります。ダンスをしたり、媚びた笑顔をふりまいたりはしませんが、ふとした表情や声色、目線だけで歌の世界を見事に表現しきっているんです。
これは、グループ活動が主流で、3分間の映像のうち5秒間しか映らないような、“口パクのアイドル” には真似できないことでしょう。“アクの強さ” と言い換えてもいいですね。そうした歌手が見当たらなくなった現在、ひばりさんの歌う姿は、若い世代にとってすごく新鮮に映っているはずです」
昭和から平成、令和へと時代は変わったが、“お嬢” は今も女王なのだ。