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名曲散歩/千昌夫『北国の春』わずか10分でできた超ロングセラー
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.06.27 16:00 最終更新日:2021.06.27 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは千昌夫の『北国の春』。田舎の情景が思い浮かぶなあ。
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マスター:1977年にリリースされ、長くヒットした1曲。紅白歌合戦で3年連続同じ曲を歌ったのは初めてのことだった。
お客さん:よれよれのコートに、丸眼鏡、首に手ぬぐいを巻き、足元は長靴というスタイルで、これでもかと田舎者を強調していたなあ。
マスター:作曲は国民栄誉賞に輝いた遠藤実。千昌夫は17歳のとき、遠藤実のもとに弟子入りしているから、師弟の間柄だった。
お客さん:固いきずなで結ばれていたんだね。
マスター:そして作詞は遠藤実のマネージャーをしていた、いではく。
お客さん:マネージャーが作詞?
マスター:遠藤実に作詞の才能が認められ、1976年には杉良太郎の『すきま風』を書き、ヒットを飛ばしている。
お客さん:なるほど。『北国の春』は、遠藤実ファミリーの傑作なんだ。
マスター:『北国の春』はもともとシングルレコードのB面用に用意されたものだった。ただ、打ち合わせの段階で、肝心のA面の歌がしっくりこなかった。
お客さん:ふんふん。
マスター:遠藤実が「B面はどうなってるんだ」と、いではくから歌詞を受けとるやいなや、「じゃあ2階で作ってくるわ。みんなで水割りでも飲んで待ってて」と上がって行っちゃった。
お客さん:何かひらめいたんだね。
マスター:そしたら10分もたたないうちに、「できたぞ」と1階に降りてきたという。
お客さん:10分!
マスター:その場で千昌夫に歌わせてみたら、これがいい出来! じゃあ、こっちをA面にしよう、と満場一致で決まったという。
お客さん:10分であのメロディーが完成するのか……。
マスター:遠藤実は、もともと故郷をテーマにした曲を書きたいと思っていて、この詞を見た瞬間、メロディーがあふれるように湧き上がってきたと、のちに語っている。
ちなみに、遠藤実は疎開先が新潟県、いではくの故郷は長野県、千昌夫はごぞんじ岩手県出身だ。
お客さん:それぞれの田舎の風景が見事に合わさったヒット曲だったのかもしれないね。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:馬飼野元宏『昭和歌謡 職業作曲家ガイド』(シンコーミュージック)/橋本五郎・いではく・長田暁二編『不滅の遠藤実』(藤原書店)/塩澤実信『不滅の昭和歌謡』(北辰堂出版)