■一度だけ、清志郎さんのメイクをされたことが……
それから4年後。ご縁をいただいて結成されたのが、細野晴臣さんのH、忌野清志郎さんのI、そして、わたし……坂本冬美のSからなる音楽ユニット、HISでした。
――2人の間に、すんなりと溶け込めた?
とんでもございません。演歌は地方での仕事が多いので朝が早く、レコーディングは遅くともお昼には始まります。ところが、「冬美ちゃんがいるから早めに始めよう」と言って集まるのが、夜の8時、9時。しかも、お2人は嬉しそうに楽器をいじりながら、ボソボソと話をしているだけです。
えっ? えっ? えっ? 何これ? いったい、いつになったら始まるの? 頭の中には? のマークが飛び交っていましたが、もちろんそんなこと聞けるはずもございません。
お2人が、「じゃあ、そろそろ始める?」と言いだすころには、時計の針が深夜12時を回っていて。とにかく、時間がゆったりと流れていたのです。
もしも。もしも。今のわたしだったら、そんな時間をも楽しめたと思います。
もう一度、清志郎さんの横で歌いたい。同じ空間にいて、同じ空気を吸いながら、ボソボソと、たわいもない会話を交わしたい……そう思っても、二度とかなわぬ夢になってしまいましたが……。
清志郎さんと一緒に過ごした、一瞬、一瞬がすべてのシーンが、わたしにとっては宝物です。
演歌もいいけど、ロックもいいよ。ほら、こっちにおいでよ――と、わたしの手を引いてくださった清志郎さんには、ただただ感謝です。
そういえば――。
一度だけ、清志郎さんの事務所にお邪魔したときに、言われるがまま、清志郎さんの衣装を着せられ、清志郎さんのメイクをされたことがあって。
あれは、なんだったのでしょうか? あのとき撮った写真は、いったいどこに行っちゃったんでしょう?
その写真なら見たことがあるという方は、編集部までご一報くださいませ(笑)。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中
写真・中村功
構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年8月10日号)