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名曲散歩/堀内孝雄『愛しき日々』 小椋佳の独特な詞に曲作りは四苦八苦
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.08.29 16:00 最終更新日:2021.08.29 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは堀内孝雄の『愛しき日々』。年末、大晦日って感じだね。
マスター:1986年、日本テレビ系の年末時代劇『白虎隊』の主題歌として使用され、40万枚を売り上げた。
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お客さん:武道館や後楽園球場を満杯にしてきたアリスのベーヤンが、演歌・歌謡曲路線に転向したときは驚いたよ。
マスター:だよね。でも、ベーヤン自身、歌の原点は幼いころに聞いた三橋美智也だったので、歌謡曲もド演歌もすんなり受け入れられたという。
お客さん:この『愛しき日々』は作詞が小椋佳なんだよね。
マスター:ベーヤン曰く、歌詞はまったく出てこないんだって。歌詞を書ける人は天才と崇めているんだとか。
お客さん:確かに、アリス時代も作詞は谷村新司、作曲は堀内孝雄というパターンが多かった。
マスター:小椋佳もこの頃から作詞はするけど、作曲は若い人に任せたいという心境になってきたそうだ。どうしても過去に自分が作曲したものと似てしまう部分が出るからね。
お客さん:なるほど。自分の歌詞を他人がどう料理してくれるのか、楽しみでもあったんだろうね。
マスター:その小椋佳の歌詞なんだけど、独特の言い回しを使うため、曲作りは四苦八苦したそうだよ。
お客さん:独自の世界観があるからな。「ここ変えてください」とも言いづらいよね。
マスター:でも、先に詞がないと書けないタイプなので、なんとか完成にこぎつけた。『愛しき日々』は翌年の日本レコード大賞で作曲賞に輝いた。ベーヤン自身もソロになってから一番好きな曲だという。
お客さん:ところで、今さらだけど、なんで “ベーヤン” っていうの?
マスター:赤穂浪士の「堀部安兵衛」から。中学の同級生が「堀」の一字が同じなので、「ホリべー、ヤスベー」と言っていたことから転じて、ベーヤンになったといわれる。
お客さん:そういうことか、サンキュー!
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:小椋佳『小椋佳生前葬コンサート』(朝日新聞出版)、塩澤実信『不滅の昭和歌謡』(北辰堂出版)、『週刊朝日』(2019/7/26号)