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名曲散歩/石川さゆり『天城越え』北条政子がモチーフだった!
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.05 16:00 最終更新日:2021.09.05 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは石川さゆりの『天城越え』。女の情念が生々しく伝わる曲だねえ。
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マスター:1986年リリース、平成にカラオケで歌われた曲の第4位というデータもある。作詞は吉岡治、作曲は弦哲也だった。
お客さん:どちらも大御所だね!
マスター:吉岡治といえば『真赤な太陽』(美空ひばり)、『大阪しぐれ』(都はるみ)、『さざんかの宿』(大川栄策)、『命くれない』(瀬川瑛子)、『細雪』(五木ひろし)など数多くのヒット曲がある一方で、『おもちゃのチャチャチャ』、『あわてんぼうのサンタクロース』など童謡まで手がけた大御所中の大御所だ。
お客さん:作風が幅広い! では、弦哲也は?
マスター:もともとは歌手だったけど、北島三郎のすすめもあり、作曲家一本に絞り、『ふたり酒』『二輪草』(川中美幸)、『北の旅人』(石原裕次郎)などを手がけ、いまや日本作曲家協会会長の要職についている。
お客さん:そんなすごい2人がタッグを組んだんだね。
マスター:『天城越え』は、その2人がある共同作業をして生まれた曲なんだ。
お客さん:共同作業?
マスター:そう、それは現地、伊豆の天城湯ヶ島温泉での合宿。もともとすでに曲はできあがっていたんだけど、2人とも何かしっくりこなかった。そこで制作チームが、作家・井上靖の定宿だった「白壁荘」を3泊分おさえた。
お客さん:まさに合宿だ!
マスター:2人は、浄蓮の滝、寒天橋、天城隧道などを散策し、実際にその空気を感じながら、創作に結びつけていったという。
お客さん:やはり、現地に行くと違うものなんだね。
マスター:ちなみに、吉岡治によると、『天城越え』はある女性がモチーフになっているという。
お客さん:誰だろう?
マスター:それは北条政子。親の決めた人のところに嫁入りせず、婚礼の最中に好きな頼朝のもとに走ってしまう。そんな一途な女性をイメージしたのだという。
お客さん:北条政子は伊豆国の豪族、北条時政の長女。まさにあのあたりが地元だ! そんな政子の情念を、石川さゆりが語り部となっていまも伝えているのかもしれないね。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:ニッポン放送『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』(2020年1月27日)/合田道人『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』(祥伝社)/NHK土曜特集「そして歌は誕生した」番組制作班『そして歌は誕生した 名曲のかげに秘められた物語』(PHP研究所)