■「米作り」の道は俳優にもつながる
永島には俳優のほかにもうひとつの顔がある。それは、農業家としての顔だ。きっかけは、30歳のときだった。
「本格的にボイストレーニングをするため、3カ月イギリスに滞在しました。そのときから『日本人』について考えるようになりました。しかし、答えが見つからない。ぼんやりと思い描いたのは『日本は米があって文化が進化した。米作りをすれば何かがわかるかもしれない』でした」
37歳のとき、そのぼんやりが実現した。秋田県に帰っていた大学時代の野球部の仲間から「映画祭をやりたいから手伝ってくれ」と頼まれたことで、当時永島は秋田に通うようになっていた。
「娘もまだ小さく、子育てに悩みや迷いもありました。妻と『自然豊かな場所で小川に入ったり、泥んこ遊びをさせたいね』と話しているうちに『そうだ、米作りでそれもできるぞ』とひらめいたんです(笑)」
一石二鳥。農家に「米作りを教えてほしい」とお願いしたが「遊び気分じゃダメだ」と断わられた。それでも永島は何度も頼み込んだ。思いは通じ、米作りが始まった。
「田んぼの広さは一反、300坪。田植えは手植えでした。野球で鍛えていたから体力には自信があったんですけど、ずっと中腰で、正直『やるなんて言わなければよかった』と思いました。だけど、やり終えたときの達成感はなにものにも代え難かったですね」
米作りを経験して、永島は「自分は確実に変わった」と実感している。
「役者にとって経験は大切だと思いました。経験をしていれば必ずそれが生かされ、台詞や演技が自分のものとして表現できる。作品の中では僕も米粒のひとつ。だけどその一粒があって作品は完成する。そんなことを思いました」
まっすぐな性格の永島。これからも直球勝負で人生に挑む。
ながしまとしゆき
1956年10月21日生まれ 千葉県出身 1977年、映画『ドカベン』でデビュー。1978年には『サード』『事件』『帰らざる日々』と3本の映画に出演し話題となり、日本アカデミー賞主演男優賞、ゴールデンアロー賞映画新人賞、ブルーリボン賞新人賞を受賞。1982年、映画『遠雷』でブルーリボン賞主演男優賞、ヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。映画『種まく旅人』シリーズに出演
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写真・野澤亘伸
(週刊FLASH 2021年9月7日号)