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『TOKYO MER』最初の死者が「鈴木亮平の妹」であるべき必然の理由
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.12 11:00 最終更新日:2021.09.12 11:00
初の死者が主人公の妹だったことは、エンタメ作品としての構造上、ベストだったように思う。
オペ室と最新医療機器を装備した専用大型車両ERカーと、その救命救急チーム「TOKYO MER」が、重大な事故、災害、事件などの負傷者を救出していく日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)。
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「TOKYO MER」の使命は、出動した現場で死者を1人も出さないことであり、主人公はそんな救命救急チームのチーフドクターである喜多見幸太(鈴木亮平)だ。
死者を出さないというチームの使命は理想論やきれいごとであり、普通に考えればその使命を果たし続けるのは不可能だろう。けれど、第9話まではどんな困難な現場でも死者ゼロを達成してきた。
しかし、先週放送された最終回1話前の第10話で、とうとう死者が出てしまった。しかも亡くなったのは、喜多見の最愛の妹で1話からのレギュラーキャラである涼香(佐藤栞里)だった。
喜多見はかつてテロリストである椿(城田優)の命を救ったことがあったが、今回、椿が善人のフリをして涼香に近づき、中身が爆弾となっている水筒を渡していた。涼香は喜多見の目の前で爆発に巻き込まれ、喜多見ら「TOKYO MER」メンバーによる必死の救命活動も及ばず、絶命してしまう。
■死者ゼロの使命をまっとうできないのは既定路線
不謹慎な表現に聞こえてしまったら申し訳ないが、最終回に向けてのドラマの盛り上げ方として、“妹の死” は最高の展開だったのではないだろうか。
視聴者のなかには、最後まで死者ゼロを貫き通すことを望んでいた人も当然いただろうが、いつかは死者が出ることは予想がついていた。
このドラマは毎回かなり過酷な事故、災害、事件が起こった現場に喜多見たちが駆けつけている。巻き込まれた一般人が瀕死の状況ということは何度もあったし、喜多見自身も死んでおかしくない状況を何度も経験している。それでも死者ゼロで使命をまっとうしていた。
つまり、奇跡のバーゲンセールをしていたようなものだ。
一応断っておくが、筆者はこのドラマを非常に面白いと感じているし、普段はそんなご都合主義連発な展開は好みではないのだが、本作においては許容できていた。そのため幸運続きで9話まで死者ゼロを達成していたことにも不満はない。
だが、それは最後まで死者ゼロを望んでいたからではなく、どこかのタイミングで必ず死者が出るだろうと予想していたからでもある。
本作の主人公たちの活躍を見て、スーパー戦隊ヒーローを彷彿する人も多かったようだが、この作品は当然子供向けではなく大人向けドラマ。絵空事の死者ゼロを最後まで貫いてしまっては、リアリティが損なわれてしまっただろう。だから死者を出すことは必然だったと思う。
要するに、死者ゼロの状態を引っ張れば引っ張るほど、死者が出てしまう回のインパクトが大きくなり、物語的に盛り上がるだろうと考えていたのだ。
実際、最終話の1話前で死者を出すのは、これ以上ないタイミングだったと思うし、うがった見方をするなら、最終話直前で主人公にとって悲劇や逆風を起こすのは、エンタメ作の盛り上げ方としてセオリーどおりとも言える。
そして、登場人物たちに感情移入せずメタ視点で作品の盛り上げを重視すれば、どうせ死なすならポッと出のゲストキャラより、レギュラーキャラのほうがいいのは自明の理。さらに言うなら、恋人や家族といった主人公に近しい存在のほうが、その死の重みが増す。
残酷な展開だったし、本作のファンでもある筆者も妹の死はつらかったが、物語の構造上はベストなタイミング、ベストな人選だったと感じた。死んだのが妹だったことで、9話まで死者ゼロを貫いてきた演出が最上の形で結実したのである。
――この『TOKYO MER~走る緊急救命室~』という作品は、死者ゼロという理想を貫くことがテーマではなかった。その崇高かつ荒唐無稽な理想をくじかれた主人公が、それでも立ち上がる姿を見せることがテーマなのだろう。最終話は15分拡大版で、今夜21時放送だ。
●堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『週刊女性PRIME』『日刊SPA!』などに寄稿中