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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】「まだ早い!」の一言で発売延期になった『火の国の女』

エンタメ・アイドル 投稿日:2021.10.02 06:00FLASH編集部

【坂本冬美のモゴモゴモゴ】「まだ早い!」の一言で発売延期になった『火の国の女』

『火の国の女』と同じ年には新歌舞伎座初出演も

 

 ひとつ、質問です。ーー坂本冬美の代表曲といったら、どの歌が頭に浮かびますか?

 

 きっと、半分近くの方が、『また君に恋してる』を挙げ、同じだけの方が『夜桜お七』と答え、その後に『あばれ太鼓』『祝い酒』『能登はいらんかいね』といった猪俣公章先生の作品が、上位に顔を覗かせるのではないでしょうか。

 

 

 もちろん、わたしにとっては、どれも大事な曲です。でも、わたしにとってのナンバー1は、誰がなんといってもデビュー5年め……1991年4月12日に発売した『火の国の女』です。昨年『ブッダのように私は死んだ』に出会うまでは、間違いなく不動の四番バッターでした。

 

 わたしの目の前に、この歌が舞い降りてきたのはデビュー3年め。曲名には『火の蛍』というタイトルがつけられていました。

 

■宙にぶら下がった梯子を登り、イナバウアー

 

 デビュー前からずっと歌いたいと思っていた女歌です。耐える。忍ぶ。じっと待つ。そんな儚(はかな)くも、せつなく美しい王道の女歌ではなく、覚悟を決めた女の強さを歌った熱さ200%の歌ですが、そこは、まぁ、作詞をしてくださった、たかたかし先生が、第一印象で「目力がすごかった」と思ってくださったわたしですからね(笑)。

 

 いただいたときはーー来たーーーーっ! これだ~~~~っ! もう、天にも昇る気持ちでした。

 

 ところが、です。猪俣先生の「まだ早い!」という鶴の一声でストップ。それから2年間温めて、曲名も改め、ようやく出させていただけたのが、この『火の国の女』というワケです。

 

 当時は新曲を決める際、候補曲がいつも10曲前後あって。残りはアルバムに入れたり、B面になったりと、ものすごく贅沢な方法を取っていたからできたことです。

 

 えっ!? デビュー曲『あばれ太鼓』のとき、猪俣先生に向かって「これは売れないと思います」と言ったように、直接文句を言わなかったのか……ですか?

 

 言えませんよ。1度めは許してくれても、2度は駄目です。確実に破門です(笑)。

 

 この歌を提げて、4月9日の大阪厚生年金会館を皮切りに、全国27カ所に及ぶコンサートツアーを敢行。宙にぶら下がった梯子を登り、最上段でイナバウアー。反り返って歌うというウルトラE難度で歌えたのも、ひとえに怖いものなど何もなかった若さゆえ。今は絶対に無理です。

 

 さらにこの年の暮れ、12月1日から25日まで、大阪新歌舞伎座で、当時 “史上最年少” で公演『花いちもんめ』の座長を務めさせていただきました。

 

 演出はミヤコ蝶々さん。国広富之さん、古今亭志ん朝師匠との共演で、パンフレットに言葉を送ってくださったのは、先代(三代目)の市川猿之助さん、現在の市川猿翁さん(二代目)です。

 

 当時は、会う人ごとに「すごいね」と言っていただき、その都度「ありがとうございます」とお返事していましたが、それがどれくらいすごいことなのか、いまひとつわかっていなくて……モゴモゴモゴ。

 

 冬美のためにと、スタッフが頑張ってくれているのにも気がついていませんでした。穴があったら入りたいほどです。

 

 振り返ると、わたしはいつもスタッフの愛情に包まれていました。いまだに我儘三昧で、みんなを困らせてばかりですが(苦笑)、心の奥ではものすごく感謝しています。

 

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中

 

写真・中村功
構成・工藤晋

 

(週刊FLASH 2021年10月12日号)

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