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名曲散歩/桜田淳子『気まぐれヴィーナス』 淡い蛍光色のオーラを放った少女
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.17 16:00 最終更新日:2021.10.17 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、この軽快なイントロは桜田淳子の『気まぐれヴィーナス』。
マスター:1977年リリース、桜田淳子の19枚目のシングルだ。
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お客さん:桜田淳子といえば、『スター誕生!』(日本テレビ系)出身。
マスター:番組史上最多となる25社のプラカードが上がり、第4回決戦大会でチャンピオンに輝いた。
お客さん:中3トリオの森昌子のプラカードは?
マスター:13社。
お客さん:同じく山口百恵は?
マスター:20社。
お客さん:桜田淳子はズバ抜けていたんだなあ。
マスター:そんな桜田淳子の楽曲をデビューから作詞したのは、審査員でもあった阿久悠だ。はじめて桜田淳子を目にしたときの印象は鮮烈なものだったという。
お客さん:鮮烈?
マスター:秋田県民会館で番組収録をしたときのこと。700人からの予選を突破してきた少年少女14人のなかで、桜田淳子は一人だけ浮き上がって見え、淡い蛍光色に光っているようだったと語っている。
お客さん:完全にオーラってやつだね。
マスター:阿久悠は「あの子、音痴でさえなければ合格させたいね」とプロデューサーと話したそうだ。
お客さん:音痴じゃなくてよかったねえ。
マスター:技術があるだけでなく、“光る” という要素を持った桜田淳子の出現は、それまで曖昧だった審査基準の方向性を決定づけたとも言っている。
お客さん:『わたしの青い鳥』『黄色いリボン』『はじめての出来事』『十七の夏』『天使のくちびる』『夏にご用心』、ほかにも阿久悠が手掛けたヒット曲があるある!
マスター:シングル盤のAB面あわせて全76曲中41曲が阿久悠作品。これにアルバムの曲を入れたら途方もない数になる。
お客さん:ある意味、プロデューサーのような側面があったのかもね。そして『気まぐれヴィーナス』だ。
マスター:阿久悠は、桜田淳子という類い稀な演劇的気質をもった美少女をどういう場面に立たせ、どういう役を与え、どういう言葉を語らせるのがいちばん魅力的かを考え続けたという。デビュー当時のファンタジーの少女から、この『気まぐれヴィーナス』ではマリリン・モンローの役を与えたと語っている。
お客さん:少女から大人へと変貌していく過渡期の曲だったんだろうな。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:阿久悠『夢を食った男たち「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代』(文藝春秋)/阿久悠『歌謡曲の時代―歌もよう人もよう』(新潮社)/重松清『星をつくった男 阿久悠と、その時代』(講談社)