■作品に出演すればするほど怖くなる
野間口に俳優人生の転機になった作品を聞くと「間違いなく『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007年、フジテレビ系)です。あの作品に出演していなかったら今の僕はいないと思います」と断言した。
「最初、第1話のワンシーンだけの出演予定でした。風船を持って立っている役です。すると脚本家の金城一紀さんが『おもしろい役者さんだね』と言ってくださり、第2話以降も起用してくださいました。
プレッシャーは、めちゃめちゃありました。どうやったら岡田准一さん、堤真一さんと演技や台詞のキャッチボールができるかずっと考えながら撮影に臨んでいました」
「今まで共演した役者さんは尊敬する方ばかりです」と言う野間口だが、なかでも影響を受けたのは生瀬勝久だ。
「『サラリーマンNEO』(2006年~2011年、HNK)などでご一緒させていただきましたが『この演技を映像でどう見せるか』『感情をどのように台詞に乗せるか』を教えていただきました。
具体的なアドバイスではなく、生瀬さんの演技を見ながらですね。今でも撮影現場で『お前、その演技で本当にいいのか』という目でジッと見つめられ緊張します」
今では名バイプレイヤーと称される野間口は、主役と脇役をどのようにとらえているのだろうか。
「最近は『主役、脇役は作品の中では関係ない』と思うようになりました。シーンによってそれぞれの役者が主役になりますから。もし僕に主役の依頼が来たら? そんなチャレンジャーな監督さんはいないと思いますけど。まあ、意識せずに待っています(笑)」
取材中、終始笑顔で話していた野間口が、ふと真顔になった。
「40代になって、恐怖をひしひしと感じています。僕が若いころ、ラサール石井さんが『売れているときこそ怖さを感じる』とおっしゃったんです。そのときは理解できなかったんですけど、お仕事をいただけるようになった今はすごくわかります。
作品に出演すればするほど『この先、仕事が来なくなったら』という恐怖が襲ってきます。お金のこともありますが、それよりも役者でいられなくなる恐怖です。だから、仕事の依頼があるとほっとします。
だけど、今度は『声をかけてくださった期待に応えなくちゃ』という別のプレッシャーがあって(笑)」
12月10日から『あなたの番です 劇場版』が公開される。野間口はドラマ版と同様に原田知世が演じる菜奈の元夫役で出演している。
「ドラマとはまったく違う展開です。内容をお話ししたいんですけど、何を話してもネタバレになっちゃう。
舞台はクルーズ船。撮影は大変でした。船って動いているときはそれほど揺れを感じませんが、停泊すると微妙に揺れるんですね。泊まりも船内だったのでいつもユラユラ。だから船酔いがつらかったです。乗り物は苦手。ふだんは人の運転する車になるべく乗らないようにしているほどです」
来年は、40代最後の年になる。
「ひとつひとつの仕事を丁寧にやっていきながら現状維持です。いつ飽きられてしまうかわかりませんから」
心底「役者」が好きな野間口だった。
のまぐちとおる
1973年10月11日生まれ 福岡県出身 大学在学中に演劇活動を始め、コントユニット「親族代表」を結成。『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007年、フジテレビ系)で演じた田中一郎役をきっかけに映像作品へ出演の場が広がる。近年のおもな出演作に、連続テレビ小説『エール』(2020年、NHK)、『漂着者』(2021年、テレビ朝日系)、映画『461個のおべんとう』(2020年)、『夏への扉ーキミのいる未来へー』(2021年)など
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写真・野澤亘伸