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『鎌倉殿の13人』ドラマでは触れられない細部への並々ならぬこだわり「首ちょんぱ以外は99%史実通り」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.01.30 06:00 最終更新日:2022.01.30 06:00

『鎌倉殿の13人』ドラマでは触れられない細部への並々ならぬこだわり「首ちょんぱ以外は99%史実通り」

頼朝を乗せて疾駆する義時。馬の扱いに精通した坂東(東国)武者の姿をよく伝える(写真提供・NHK)

 

 NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人』が好評だ。視聴率(関東地区)は初回17.3%、第2回14.7%を弾き出した。

 

 三谷幸喜脚本による「予測不能エンターテインメント」という宣伝文句そのままに、早いテンポで飽きさせない展開だが、それだけではない。「風俗考証」にあたった佐多芳彦氏(立正大学教授)が、「もうひとつの見どころ」を語る。

 

 佐多氏が大河ドラマで風俗考証を担当するのは『平清盛』や『麒麟がくる』などに続いて5回め。そもそも、風俗考証とはどんな仕事なのか。

 

 

「今回は鎌倉時代初期の設定に合うように、人物や描かれる場面と史実との検証をおこないます。『時代考証』と違うのは、衣服や小道具、人物の所作なども含めて、映像となる部分を忠実に再現するところです。そのために、当時の文献資料や、絵巻物、肖像画、屏風絵などの絵画資料にもあたります」(佐多氏、以下同)

 

 小栗旬が演じる北条義時ら、鎌倉武士たちの服装も風俗考証を経て再現された。

 

「今回、武士は頭に『烏帽子(えぼし)』を被っています。戦国時代や江戸時代の武士は、髪を剃って月代(さかやき)にした頭を露出していますが、鎌倉武士は、まだ(京の)朝廷の風俗習慣に従っていて、みんな必ず烏帽子を被っているのです。

 

 衣服でいえば、『裃(かみしも)』が出てくるのが戦国時代の終わりで、江戸時代になると『忠臣蔵』で描かれるように、袴が異様に長いものも現われます。

 

 一方、鎌倉武士は、ほぼ全員『直垂(ひたたれ)』を着ています。この直垂が発展して、裃や羽織になりました。初回を見た視聴者から、服装はもっとピンとしていたんじゃないかという声が多く届いたそうですが、直垂に烏帽子が現実です」

 

 鎌倉武士は質素だった。それを再現するために、着物の材質にまでこだわったという。

 

「直垂は植物繊維の布製でした。だから “ツヤ消し” に見え、しかも縫い目が粗いので、貧乏くさく感じます。対する都方は、朝廷も平家もお金があり、絹をふんだんに使った服を着ていました。テレビ画面でもツヤがあって高級品に見えるように仕上げ、鎌倉武士との差を強調しています」

 

 女優陣の服装にも注力した。

 

「小池栄子さんが演じる北条政子は、『小袖』という着物を身に着け『湯巻』という前掛けをしています。洗濯や料理をするのに都合がいい服装です。いわば召使いの姿。その格好は、後の『武家の婦女子』のイメージとはだいぶん違いますが、鎌倉のころの武家は、半分は農家でもありました。それが女性たちの服装にも影響しているのです。

 

 政子と対照的なのは、新垣結衣さんが演じる八重の衣装。政子と違って湯巻は着けておらず、きれいな小袖を重ね着しています。これは、八重の伊東家が北条家より格上であり、高貴な姫であることを表現しています」

 

 武士が住む館も、史実に基づいて復元した。

 

「当時の地方武士の屋敷は、屋根が板葺きで古びた暗い家でした。館の中で義時が木簡を削る場面がありましたが、当時は武士といえども、畳の上で机に向かって仕事をしているわけではなかったのです」

 

 第一話の最後で、八重の父・伊東祐親(浅野和之)が兵を率いて北条家の面々と向かい合う場面があった。

 

「攻めてきた伊東の軍勢は、大見得を切ったわりに迫力がなかったと思われるかもしれません。これはエキストラが足らなかったわけではなくて、実際にあの程度の人数だったのです。これ以外にも、視聴者の皆さんが『あれ?』と思うところは、史実に寄せて描いている場合が多いのです」

 

 史実に忠実であろうとした結果、視聴者の期待に反してしまうこともあるようだ。

 

「たとえば大泉洋さんが演じる源頼朝。今までの大河では、武家の棟梁ゆえに金色っぽい服を着たりして、派手な演出がなされてきました。しかし、実像は質素を好む人。たとえば、平氏追討の命を下した『以仁王の令旨(もちひとおうのりょうじ)』を読み上げるときは『水干(すいかん)』を着ました。

 

 水干はもともと朝廷の下級役人の服装ですが、伊豆に流されるまで朝廷の官吏だった頼朝は、威儀を正すときは水干を身に着けました。こういう頼朝像は、視聴者のイメージを崩すかもしれません」

 

 初回に登場した義時の父・時政(坂東彌十郎)の台詞「最後は首ちょんぱじゃねえか!」の「首ちょんぱ」というワードは、ツイッターでトレンド入りした。

 

「当時なら『首を切られる』『首を落とされる』という生々しい言い方をしたはずです。そういう意味で、史実に忠実とはいえませんが、『首ちょんぱ』という表現から、北条氏の置かれた状況がよく伝わってくるわけです。

 

 ここが三谷さんの脚本のすごい部分でありヒットの秘密でもありますが、99%は昔の言葉を使い、1カ所だけ、視聴者を引き込むために、そういう演出をされたのでしょう。99%の史実があるから生きた表現です」

 

 風俗考証の権威である佐多氏も、完成したドラマを観るまでは、不安をぬぐい切れなかったと明かす。

 

「試写用のDVDが家に送られてきて、プレーヤーに入れた瞬間から、心臓がバクバクしましたね。2回め、3回めと続いて、ようやくストーリーを追えるようになりました。考証がしっかり反映されており、非常にうまく当時を描けていると思います」

 

 風俗考証も真剣勝負。舞台裏を知れば、ドラマはさらにおもしろくなる。

 

※大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はNHK総合ほかで毎週日曜日午後8:00~8:45に放送中

 

( 週刊FLASH 2021年2月8日 )

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