「『カメ止め』に出た後、みんなでレッドカーペットを歩いたり、いろんなイベントに出たり。そんなこと、昔は予想もできなかった。これからも、いただいたご縁を忘れず、チャレンジできることは続けます」
笑顔でこう話すのは、女優の竹原芳子。映画『カメラを止めるな!』(2017)に出演し、その個性的なキャラクターで強い印象を残した。その後は『ルパンの娘』(フジテレビ系)などでも大活躍だ。
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大学を卒業後、証券会社や裁判所などでOLをしてきた。転機を迎えたのは、50歳のときだ。
「『秀吉』というNHKの大河ドラマが好きで。そのなかで、織田信長を渡哲也さんが演じられてて、火の中で『人間50年』と舞いながら亡くなるシーンがあったんです。それを強烈に覚えていて、50歳になったとき、ふと思ったんです。『あれ? 織田信長やったら死んでる。私、このままでいいんかな』って」
第2の人生を歩むため、竹原はNSC(吉本総合芸能学院)大阪校の門を叩く。同期にはコロコロチキチキペッパーズや霜降り明星などがいる。
「50歳からの新入生ですよ(笑)。アマチュア落語で使っていた『西天満亭どんぐり』からとって、『どんぐり』という芸名でピン芸人になりました。若い同期に混じってなんとか卒業したものの、もちろん、そのままテレビに出られるわけではありません。この先どうなるんやろうって、ずっと考えていました」
お笑いや舞台に挑戦するうち、映画にも興味が湧いた。思い切って応募したオーディションには一発合格し、『カメラを止めるな!』への出演が決まった。300万円という低予算ながら、興行収入は30億円を突破した。
「『カメ止め』のヒットでいろんな経験をさせてもらいましたが、実は私は、撮影が終わっても、ずっとやりたいことを模索してたんです。『本当に私がやりたいことって何だろう?』って。ドラマの設定なら『イタいおばちゃん』ってところでしょうか」
そんな竹原が、62歳の誕生日を迎えたいま、「ようやく笑える自分になれた」という。
「いろいろ悩みましたし、あっちこっち寄り道もしてきました。でも、あるときカメラマンさんが、『シンデレラストーリーみたいな劇的なデビューですよね』って言ってくださって。『そうか、私、還暦のシンデレラやな』と思うと嬉しくなりました」
竹原は、そんな人生の紆余曲折をエッセイ『還暦のシンデレラガール』(サンマーク出版)にまとめた。自分探しを続けた結果、手に入れたシンデレラみたいな人生。たどりついたのは「生きたいように生きたらええやん」という考え方だった。
そんな竹原に、「人生の10の必勝法」を聞いてみた。
(1)無理はしない!
「OL時代は、若さだけで突っ走って。遅くまで仕事して、夜中に飲みに行って、朝方に仮眠をとってまた仕事。仕事を頑張ることとか人付き合いがいちばん大事だと思っていました。
でも、いまとなっては、年齢を重ねたぶん、無理をしすぎて疲れるよりは、無理せず、気持ちも体も安定した状態でいることが、いい出会いにつながると思っています」
(2)身近なことに喜びを感じる
「OL時代に、電車を乗り過ごしたことがあるんですよ。でも、ふと気づいたら、普段は見ない景色が目の前に広がっていて、『ああ、世界はこんなんやな〜』と思いました。この間も夕日がすごくきれいで……でも、周りの人はスマホを見てるばかりで、誰も空を見ていなかった。もったいないですね。こういう小さなことにでも喜びを感じていると、心が豊かになります」
(3)自信を持とう
「『カメ止め』の撮影のとき、上田慎一郎監督に『そのままでいいよ』と言ってもらえてから、『このままでいいんや』と自信がつきました。それまでは、テレビに出る女優さんはきれいじゃないといけないとか、思い込んでいたんです。でも、いまの私はそのままテレビに出していただいています。
私はよく唯一無二と言われるんです。なんか覚えやすいみたい。ちっちゃい目だったり、広いおでこだったり、声も特徴的らしくて。それはみんなコンプレックスだったんですけど、いまはそれを生かすことが出来ている。自信って『自分はこのままでいい』と信じることだと思うんです。そうすると、不安がなくなるんです」
(4)どんなときでも「大丈夫」と言ってくれる人を見つける
「何かを人に相談すると『歳やから、いい加減にしとき』などと言われることがありますよね。それは私のことを思って言ってくれてるんですけど、そういうお友達に相談するよりも、『大丈夫』と言ってもらえるお友達がいたほうがいいと思います。自分が安心できるから。人に否定されて挑戦しないままだと、後になって後悔します」
(5)人の言うことは気にしない。相手にも押し付けない
「最近になって、ようやく人目より自分の気持ちを大切にするようになりました。人の言うことを気にしないかわりに、自分の言うことも人に押し付けない。
会社にいた頃は、仕事をやめたいという子に『もうちょっと頑張ろうや』と言ったりしていたんですけど、それはその人の人生であって、私とは環境も考え方も違う。自分はよかれと思ってアドバイスしていたけれど、いまとなっては大きなお世話だとわかりました。
10人いたら、10人それぞれが考え方や進む道が異なる。そこで自分の考えを押しつけたらあかんなぁ、と思います」
(6)ほどよい運動を続けよう
「ランニングとか本格的な運動ではないです。私、宝塚のDVDにハマっていて、それを観ながら踊ったりします。あとは、一本歯の下駄を履きます。これを家のなかで履いて、体幹を鍛えているんです。洗い物をするときとかも履いてますね。いい人生を送るために、健康は欠かせません」
(7)大丈夫と思ったら大丈夫になる
「人間、誰しもつらいことがあると思うんです。でも、そういうときに自分を投げ出さない。私も昔、つらい経験がありました。でも、その体験をした日から自分が生きてることに感謝できるようになったんです。『神様は乗り越えられない試練は与えない』なんて言葉もありますよね。この言葉って本当やなぁと、思います。この言葉を受け入れて、自分は大丈夫って思ったら大丈夫になる。ダメと思ったらダメ。どう思うかは自分次第」
(8)人生にムダはない
「人生にはムダがないと思います。あるとき、とあるお坊さんの本を読んで、そこに『人生にムダな時間はない』って書いてあったんです。どんな時間を過ごしていても、ムダではない、と。
若いころって、休日にお昼過ぎまで寝ていたら、休みをムダにしたと思って落ち込んだりすることがあったんです。でも、人生にムダなんてないと考えたら、気持ちが楽になりました」
(9)笑う門には福!来たる
「私ね、朝起きたらお水を飲んでハッハッハッって笑うんですよ。それだけで明るくなれる。
大阪にある枚岡神社では『お笑い神事』っていうものをやっていて、20分間も笑い続けるんです。そのお手伝いに行ったことがあるんですけど、本当に何もないのに、みんなで笑い続けるんです。
あるとき悶々としていて、でも、そのままじゃ仕方ないから、笑い飛ばしてみようと思ったんです。布団に入って、勝手に大きな声で笑っていたら、楽に寝られるようになりました(笑)。それから、悩みがあるときには笑い飛ばすようになりました」
(10)本当にやりたいことは自分が知っている
「本当にやりたいことは、自分の気持ちが知っていると思います。たいてい、やりたいことがあっても、すぐに理由をつけてあきらめてしまう。何かやりたいことが見つかった瞬間を大事にしましょう。
『カメ止め』のオーディションを受けたときも『これは若い人がするもんや』って言ってあきらめていたら、出演にはつながらなかったと思います。やってみたいと思った瞬間の気持ちを大事にすることが大切です」
竹原のいまの夢は「100歳まで生きること」だという。
「100歳まで生きて、あと100個はやりたいことを見つけないと! お芝居のほかにも、やりたいことはたくさんあるんですよ。たとえば『日本中のあんこのお菓子を食べ尽くしたい』『ケニアでフラミンゴの大群がはばたくのを見たい』『ヨットに乗って釣りたての魚の刺身を食べたい』『栗になるほど栗を食べたい』……」
還暦をすぎても、竹原の “自分探し” はずっと続くのだ。
( SmartFLASH )