――実際に動画を撮影される際のこだわりもお聞きしたいです。
いちばんこだわっているのは、絵を描くときに僕が見ている目線で、みなさんにも見ていただくということ。そのために、絵を描く様子は僕の視点と同じ位置からスマホで撮っています。
絵を置くイーゼル(画架)と、僕が座る椅子の間に、三脚で立てたスマホを設置しています。少々、変な姿勢で描くことになりますが、まったく問題はありません。
途中まで描いたら、少しスマホの位置を動かして、そのとき描いている部分を拡大することもあります。編集のことも考えながら、いろいろ調整しつつ撮影しています。
対面の講座をやっていて、生徒の皆さんが絵を見るのに苦労されていると感じてきました。人が多いと、位置的に逆さに見るしかない人もいて。
だから、少なくとも動画では、見やすい目線で見ていただきたいんです。描いている過程がすべてわかるよう、できるだけカットもしないようにしています。
添削動画を撮るときなどは、パズルをやっているような感覚になります。パレットを持って、元の絵を見て、コメントをしつつ、自分でゼロから添削を反映させた絵を描いていきます。考えながら描くのは慣れているので、いまさらどうということもないのですが。
――添削動画では、動画の冒頭で抽選をしてから、当選者の絵を見て、柴崎さんも描き始めるというスタイルですよね。いつも素早い解説に驚かされます。
長年の講師生活で、添削は得意分野なんです。でも、添削動画では直前まで何を描くかわからないし、選べない。即断即決で、すぐにデモンストレーションしなくてはいけません。
描いてきた方の持ち味を壊さず、直したほうがいいところはできるだけ視覚的に見せる必要があります。みなさん一生懸命描いてきてくださるので、いいところはまず褒める。
ここは素晴らしい、配置はいい、などと指摘しながら、もう少し遠近感を出すといい、もっとこんな色を入れるといい、といったアドバイスもきちんと伝えます。
手を加えなさすぎても「違いがわからない」と言われたり、加えすぎると「元の絵はあんなによかったのに」と言われたり、塩梅がむずかしいんです。でも、そこがおもしろい。
――添削依頼の絵が、海外からくることも多いですよね。視聴者の何割ぐらいが海外の方なんでしょうか。
9割は日本の方、残り1割は外国の方です。英語の字幕をつけていますから、英語圏のアメリカやインドの方が多いです。海外の視聴者さんは絵を学びたい方が多いようで、添削依頼でいえば、日本の方7割、海外の方3割といったところでしょうか。
字幕もつけているので、編集はすこし大変です。撮影を終えたら息子にデータを送り、大まかな打ち合わせをします。次にデータを外注に出して、すべて、日本語で文字起こしするんです。僕が話している内容と合っているかチェックしたうえで、翻訳に出します。
最後は翻訳をつけて、サムネイルを作ります。1本の動画を作るにも、なかなか工程が多いです。
●「じいさまが出演している」は真似できない
――サムネイルで必ず柴崎さんご本人が出ているのは、こだわりなのでしょうか。
すみません、本当に出たがりなじいさんで(笑)。絵の世界では、何者にも侵されない “オンリーワン” であることが大切です。僕の動画では「こんなじいさまが出演している」というのが大きな特徴です。僕の顔が全面に出ているほうが、誰にも真似できないサムネイルになるだろうと思っています。
――柴崎さんがYouTubeを始められたとき、ほかに絵画系YouTuberさんはあまりいなかったと思います。ロールモデルがいないというのは、大変だったのではないでしょうか。
ほかの方はぜんぜん意識になくて、調べてもいないです。僕のやりたいことを、僕に関心がある方に提供して、その場を作ることだけを考えていました。
僕は長く絵を描いているけども、もともとほかの絵描きには関心がないんです。YouTubeも同じです。あるとき、取材に来た方で、「絵画系のYouTuberの人が多くなってきましたが、どう思いますか」と質問を受けましたが「そうなんですか!」と返したぐらい、ぜんぜん知らなかった。でも、増えるのはいいことですよ。
息子は、YouTubeを作るためにいろいろな動画を覗いて、参考にしながら編集を始めたみたいです。僕は息子に「ものを作るとき、あちこちからいいとこどりをしても、絶対にいいものはできないよ」という話をしたんです。
「人のYouTubeを見るのはいいけど、あれこれと集めてくるようなやり方は、今後、絶対やめようね」と。そういう行為は、自分を見失うもとです。人のものを見すぎたり、参考にしすぎたりすることは、魔物ですからね。
僕は長年、ひとりで自分の絵を描いてきました。だから、いままでの人生経験からそう思っているんです。
写真・久保貴弘
( SmartFLASH )