2012年の女優デビュー時から、第一線で女優としての階段を駆け上がってきた石井杏奈(23)。台本を持ち歩くため、さぞかし大きなリュックを背負っているかと思いきや……、
「私、小さいバッグが好きなんですよ。お財布やスマホなど、最低限のものが入るくらいのサイズが」
と、意外な答え。
しかも、ファッションアイテムとしてのバッグには、これまであまりこだわりがなかったという。
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「10代の後半くらいから、どんなお洋服を着てもずっと同じバッグ(笑)。小さめのスエードのバッグで使い勝手がよかったのですが、さすがにあちこち傷んできたなぁと思っていた去年の12月、このバッグをいただいたんです!」
柔らかい素材の黒いバッグは、彼女を担当するヘアメイクとスタイリストからのプレゼント。石井の好みを知り尽くす2人が選んだだけあって、「パーフェクトです。軽いし、見た目よりたくさん入るし、どんなお洋服にも合うし!」
男女問わず「いいバッグだね」と、みんなから褒められるのだと嬉しそうに語る。
以来、このバッグをお伴に女優として大活躍している石井だが、芸能界に入ったきっかけは、パフォーマーとしてのスカウトだった。
「小学校5年生のときでした。いま思うと不思議なのですが、それまでの私は芸能界というのは、なんというか幻の世界のような感じで、実在していない気がしていたんです(笑)。なので、アーティストや俳優が、職業だということもピンとこなくて……」
打ち込んでいたダンスも、習い事のひとつという感覚で、将来は看護師になりたいと思っていたのだという。
■今夏はミュージカルで歌って踊る!
将来の選択肢に、芸能界というものがあるのだとわかったとき、真っ先に頭に浮かんだのは「だったら私、お芝居をやらなきゃ」という、自分でも説明がつかない気持ち。
「やりたいではなくて、やらなきゃだったんです。なので、事務所には演技レッスンをやらせてくださいとお願いしましたし、映画やドラマのオーディション情報を母と調べたりもしていました」
パフォーマーとしての活動をスタートした翌年には、オーディションで役を勝ち取ったドラマ『私立バカレア高校』(日本テレビ系)で女優デビュー。E−girlsとして多忙な日々を送りながら、女優としても着実にキャリアを積み重ねてきた。女優として、もっとも大切にしていることは? と尋ねると、
「嘘をつかないことです」
と、即答。
「女優というお仕事は、自分がしたことがない職業や、経験したことがないことを演じるけど、気持ちという意味では嘘をつきたくないんです」
なので演じるときは、その役柄のなかに自分が共感できる部分を探す。
「映画『破戒』では、明治時代の元士族である女性、志保を演じさせていただきましたが、私はもちろん明治時代を生きていないですし、身分制度というものもリアルにはわかりません。ですが、志保が丑松(うしまつ)さんを思う気持ちには共感できるんです」
『破戒』は文豪・島崎藤村が明治時代に著した作品で、これまでに何度も映像化されている名作。主人公の丑松は被差別部落出身で、身分差別がテーマのひとつである。
「お話をいただいたときは、私にできるのかな? という不安がありました。ですが、同時に挑戦したいという思いも湧いてきました」
完成した映画を見終わったあと、真っ先に心に浮かんだのは、令和を生きる若い人にこそ観てほしいという思い。
「今の日本には、表立っての差別は少ないですが、見えない差別はやはり存在していると思うんです。そのことに一石を投じられたらいいと思いますし、なによりも『破戒』は愛と強く生きることを描いた作品だと思うから」
しっとりと明治の女性を演じたあと、この夏はミュージカルで歌って踊る。
「ダンスで経験してきたことが、女優としてのお仕事に影響しているのかどうか、自分ではわからないのですが、以前、寺尾聰さんとドラマでご一緒させていただいたときに『アーティスト活動は続けたほうがいいよ』と言っていただいたことがあるんです」
なぜなら、歌やダンスのリズム感は、必ず演技の仕事に生きるからと。
これからも彼女は、自分に必要なものだけを入れたバッグを片手に、女優という階段を上がっていくに違いない。軽やかなステップを踏みながらーー。
いしいあんな
1998年7月11日生まれ 東京都出身 2015年に映画『ガールズ・ステップ』と『ソロモンの偽証 前篇・後篇』で第58回ブルーリボン賞/新人賞、2016年にドラマ『仰げば尊し』で第5回コンフィデンスアワード・ドラマ賞/新人賞を受賞。8月からミュージカル『リトル・ゾンビガール』へ出演予定
写真・中村 功
取材&文・工藤菊香
ヘアメイク・八戸亜季子
スタイリスト・道端亜未