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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『酔中花(すいちゅうか)』難行苦行のレコーディング
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.07.16 06:00 最終更新日:2022.07.16 06:00
桑田佳祐さんからいただいた『ブッダのように私は死んだ』から1年半……5月25日に、デビュー36年めの勝負曲『酔中花』を発売させていただきました。
普通は、新曲の発売から半年もたたないうちに次の新曲の制作に入るのですが、今回はとてもそんな気持ちになれなくて……。
半年がたったころは、まだ『ブッダ』を歌い続けたくて。1年を前にしても、もう少し歌っていたいという気持ちが強すぎて。ようやくわたしのベクトルが新曲に向き始めたのは、師走に入ったあたりのことでした。
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まず、最初に決めたのは、
ーー演歌に戻ろう
ということです。
坂本冬美が歌えば、ポップスもジャズも、みんな演歌といえば演歌といえなくもないのですが(笑)。以心伝心といいますか、情意投合といいますか、次はやっぱり演歌でしょうと、みんなの意見が一致。みんなの意見が分かれたのは、その次の段階です。
■どこか甘えるような “か” なんだよねぇ
ど演歌でいくのか!? 男歌がいいのか、それとも女歌で勝負するのか? 決められないまま両方作ってみようということになったのですが……でもこのとき、わたしの中では、ひとつの確かな方向性が見えていました。
これまでは、ど演歌を歌ったら、次は180度方向転換して、ポップス系の曲に舵を切るなど、
ーーおぉ、そう来たか!
と思っていただけるように、あれこれ想いをめぐらせてきましたが、今回はそうじゃない。
『ブッダのように私は死んだ』の流れを堰き止めて違う流れを作るんじゃなくて、『ブッダ』があったからこの流れになったのね、という繋がりを大事にしたいと思っていたのです。
このわたしの想いを酌み取ってくださったのが、『ブッダ』を出した直後「すごい歌が出来ましたね」とおっしゃってくださった、作詞家の吉田旺先生と、凛としたなかにも儚く健気な女性を思わせる素敵な曲を作ってくださった徳久広司先生のお二人です。
和やかな雰囲気で始まったレコーディング・スタジオに暗雲が垂れ込めたのは、これでもう終わり……と思ったその瞬間でした。
「そこ、そこの最後の “か” が、なんか違うんだよなぁ」
最後の “か” というのは、酔中花の “か” ですか?
「そう。女々しい感じの “か” じゃなくて、どこか甘えるような “か” なんだよねぇ」
徳久先生に言われて思い出したのが、あやちゃん(藤あや子)に言われたひと言でした。
「冬美ちゃんの性格は、一見カラッとした竹のように見えるけど、でも割ったら中には餅が入っている感じだよね」
う~~~~ん。悔しいけど、おっしゃるとおりです。こう見えてわたし、意外とねばねばしているんです(苦笑)。
「ちょっと鼻にかけて、男の人に甘える感じで……」
おっしゃっている意味はわかります。わかりますが、何せこれまでの人生で、男の人に甘えた経験がないわたしにとっては、これが難行苦行で。機会がございましたら、この『酔中花』の “か” に耳を傾けて聴いていただければ幸いです。
皆さんに愛していただいたこの連載は、今回が最終回です。最後までおつき合いくださり、感謝しかありません。
またいつかご縁がございましたら……。
えっ!? すぐに新連載が始まる? タイトルも『坂本冬美のモゴモゴ交友録』に決まっている? いや、あのぅ……なんと言いますか……そういうわけで、引き続きよろしくお願いいたします(笑)。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。1年半ぶりのニューシングル『酔中花』が発売中!
写真・中村 功
構成・工藤 晋