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松井玲奈 作家として「あっ、負けた」と思った瞬間…主人公の女のコに自分を重ねたファンの一言

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.08.28 06:00 最終更新日:2022.08.28 06:00

松井玲奈 作家として「あっ、負けた」と思った瞬間…主人公の女のコに自分を重ねたファンの一言

松井玲奈

 

 今、もっとも大事にしているものを持ってきていただけますかーー。

 

 その依頼に松井玲奈(31)がバッグから取り出したのは……ところどころ付箋が貼ってある一冊の文庫本。島本理生が紡いだ恋愛小説『よだかの片想い』(集英社文庫)だ。

 

「6、7年くらい前だったと思います。ふらりと立ち寄った『ヴィレッジヴァンガード』の、なぜか天体コーナーに、この小説がポツンと置いてあって。なんだか不思議な感じがして手に取ったんです」

 

 

 偶然か!? それとも、運命の出合いだったのか!? 松井はその本を持ってレジへと向かった。

 

「もともと、本を読むのが好きな子供だったんです。絵本から始まって、小学生のときは『ハリー・ポッター』シリーズや、『ダレン・シャン』シリーズなどの海外小説や推理小説を夢中になって読んでいたんですが、ちょうどこの時期は仕事が忙しくて、本から遠ざかっていたんですよね」

 

 容姿の醜さで仲間からも嫌悪された “よだか” が、遂には星に転生するという宮沢賢治の短編小説『よだかの星』を連想した書店員さんが、天体のコーナーに置いたのであろうその遊び心が、松井の気持ちをくすぐった。

 

「夢のような恋物語ではなく、アイコという等身大の女のコが、時に暴走したり妄想に走ったり……恋に対してまっすぐなところに惹かれて。誰もが一度はこういう恋をしたことがあるんじゃないかなあと思いながら、一気に読み終えてしまいました」

 

 それから、すぐに近所の書店に走った。

 

「ハードカバーから文庫まで、本屋さんにあった島本さんの作品を全部買って、本棚にドンと並べて(笑)。端から順番に読んでいったんですけど、作家さんを大人買いしたのは、これが最初で最後です」

 

 自らも体験できた気持ちになれる世界観。紡ぎ出す物語。心に突き刺さる言葉。すべての島本作品に心惹かれた。なかでも、いつまでも熾火(おきひ)のように心に残ったのがーー。

 

「5年くらい前だったかな。映像にしたい作品、演じてみたい作品ってある? と聞かれたときに、ぱっと浮かんだのが、この『よだかの片想い』だったんです」

 

■役者、作家として肝に銘じていること

 

 そこから、スタッフとともにじっくりと時間をかけ、ひとつひとつ課題をクリアし、昨年、映画制作にこぎつけた。

 

「脚本の段階から、監督とは何度も話をさせていただきました。なぜ、このシーンがないんですか? このシーンがないと物語全体が生きてこないと思いますとか、私の思いをすべてぶつけて。もしかしたら “面倒臭いやつだな” と思われたかもしれませんが(笑)。これまで、そういうやり方をしたことがなかったので、すごく勉強になりました」

 

 撮影に入っても、監督とのセッションは続いた。

 

「同じセリフなのに、アイコという女のコのとらえ方が違うと、感情表現がまるで違ってくるんです。私は悲しんでいると思うのに、監督は怒っていると思うとおっしゃって。両方試してみて、監督のおっしゃるとおりに演技をして思ってもみなかった感情がそこからポンと生まれてくることもあれば、その逆もあって。すごく楽しい撮影でした」

 

 ぶつかり合い、撮り直しを重ね、瞬間、瞬間の煌めきを紡ぐようにして出来上がった作品を、松井自身はどう思っているのだろうか。

 

「思い入れが強すぎて客観的に観ることはできなかったんですが(苦笑)。本にはなかったラストシーンが、すごく印象に残っています。撮っているときは、頭の中に疑問符が飛び交っていましたが、実際に自分の目で観てみると、すごく幻想的できれいで。あまりの美しさに、ちょっと……いや、ものすごく感動しました」

 

『よだかの片思い』に限らず、小説を原作とした映画は多い。そして今回、アイコを演じた松井は、役者であると同時に『カモフラージュ』『累々』という2冊の小説を書いた作家という顔も持っている。

 

 この先、自分が書いた小説を、自分で演じるということも……ある?

 

「それはないです。そんな気持ちは1ミリもないです(笑)。一人の役者としても、ものを書く人間としても、大事なのは、そこに松井玲奈という人間の影をいかにして消すかだと思っているので」

 

ーーそれって……どういう?

 

「最初の短編小説を書いたとき、登場する主人公の女のコは、全部玲奈ちゃんだと思って読みましたと、ファンの人から言われたことがあって。その瞬間 “あっ、負けた” と思ったんです。その物語に松井玲奈が出てきちゃいけないんです。今回演じた『よだかの片思い』のアイコも同じで。松井玲奈じゃなくアイコとして観てほしいし、そうならなきゃそれは私の力不足ですね」

 

 どこまでも真面目で、どこまでもストイックで、人間のダークな部分にも心惹かれるという松井。自身の書いた小説を「ほかの誰かが映画化してくれるなら、それはぜひ観てみたい!」と白い歯をこぼしたが、それでもやっぱりいつか松井玲奈が書いた小説を、彼女自身が演じる作品を観てみたい。いつか……そういつかは……。

 

まついれな
1991年7月27日生まれ 愛知県出身 女優、作家(『カモフラージュ』『累々』いずれも集英社)など、幅広い分野で活躍。主演映画『よだかの片想い』は、9月16日より、東京・新宿武蔵野館ほか、全国公開

 

写真・中村 功 取材&文・工藤 晋

( 週刊FLASH 2022年9月6日号 )

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