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子供厳禁!「仮面ライダー BLACK SUN」18+指定を受けても白石和彌監督が描きたかったものとは
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.11.13 06:00 最終更新日:2022.11.13 06:00
仮面ライダー誕生から50年。歴代作品のなかでも今なお人気の『仮面ライダーBLACK』が「18+」大人向け作品として甦った。「18+指定は私の不徳の致すところです……」と不敵に笑う白石和彌監督が『仮面ライダーBLACK SUN』でレイティング指定されても描きたかったものはーー。
<1> 社会問題がモチーフ
本作では1972年と現代の2つの時代を舞台に、人間と怪人の差別に起因する闘争が描かれる。その描写は1970年代の学生運動や近年のヘイトデモを想起させる。「50年前と今では社会状況は違います。その違いはなんで、人間はどう変わったのか。もしそこに怪人がいたらどうなっているだろうか。真剣に描きました」(白石監督)
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<2> 生物同士の凄惨な戦い
怪人=生物と定義した本作では、怪人同士が闘争本能をむき出しで戦う。「編集スタッフに『これ、白石映画でヤクザが戦っているのと変わらない』と言われたような凄惨な場面もあります」(白石監督)。血や内臓が飛び散り、体が無残に切断されるなどの描写で、『仮面ライダー』初の成人向け作品に
<3> 怪人たちの「悲哀」
怪人が抱える「悲哀」を表現することにこだわったという。「石ノ森章太郎作品のキャラクターは顔に “涙線” が描かれていて、悲しみを感じさせるデザイン。見た目だけでなく、世界観も含めてそこを意識しました。怖くてもどこか悲しげな怪人の姿を見てほしい」(白石監督)
<4> 生物感を追求したビジュアルデザイン
コンセプトビジュアルは樋口氏が担当。それをもとにベルトやバイクなどが制作された。「世界観を読み取り、改造人間、怪人たちの有り様、未来に向けて仮面ライダーがいかなるものを目指すべきか……。それらを立案し、実現可能なステージに落とし込むことが要求されました」(樋口氏)
■白石和彌監督が語る『仮面ライダーBLACK SUN』、「怪人にも人間にも善と悪がいる」
「東映からの最初のオファーは『 “大人の仮面ライダー” を作ってください』というものでした。ただ『仮面ライダー』は大人も子供も楽しめるコンテンツだと思っています。僕としては、PG12くらいの作品を目指していたのですが、18+指定になってしまいました。これは不徳の致すところです」
こう語るのはヤクザ映画や実録犯罪映画を多数手がけるアウトロー映画の鬼才・白石和彌監督だ。本格的な特撮作品を手がけるのは初めてだ。
「映画監督として『仮面ライダー』を作るということは想像していなかったですね。ただ、いつか特撮作品にもチャレンジしたいという気持ちはありました。昭和の『仮面ライダーBLACK』を見直し、リメイク機会のなかったこの人気作に、ぜひ挑戦したいと思ったんです」
『仮面ライダーBLACK SUN』は特撮ヒーロー作品だが、白石監督ならではのアウトロー感やバイオレンス描写も満載だ。
「この作品にはいろいろな怪人が出てきます。怪人にも人間にも善と悪がいて、それぞれの思惑が交差する群像劇を描きたかったんです。
怪人同士の戦いに関しても、リアルさや生物感を追求しました。残酷描写を見せたいという意図ではなく、生々しい戦いを描きたかったんです。生き物であることが感じられるような戦いで、各怪人によって動きや技も個性的で多彩です。主役のブラックサンの戦い方や見た目も、エピソードが進むにつれ、変わっていくので観てほしいですね」
■50年後のファンの心に届く作品になっている
本作には『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』で監督を務めた樋口真嗣氏が、コンセプトビジュアル担当として参加している。白石監督自身が直接口説いたという。
「樋口さんは特撮映画のエキスパートです。今回は僕が直接依頼して、怪人のデザインや設定などに関して、力を貸していただきました。クジラ怪人を登場させるために新たなデザインを考えたとき『頭が地面すれすれの位置にある巨大な怪人はどう?』など、絶対に誰も思いつかないようなアイデアや世界観を提供してくれる人なんです。庵野秀明監督が樋口さんを大好きな理由が、今回ご一緒してよくわかりました」
『仮面ライダー』50周年記念作品としての意義も本作にはある。
「『BLACK』自体は1987年の作品ですが、今回は1972年という時代設定にして『仮面ライダー』50周年にかけています。現代と50年前を繋ぎ、時間の流れを表現したかったんです。また、50周年作品は100周年のときには絶対観られる作品。それは意識して4K、5.1chというフォーマットにはこだわりました。50年後の『仮面ライダー』ファンが観ても、届くメッセージをこめた作品だと自負しています」
前出の樋口氏だけでなく、本作には日本特撮界のクリエイターが多数参加。俳優陣も西島秀俊、中村倫也をはじめ、豪華な顔ぶれが集結した。
「僕自身も興奮しています。ライダーを演じるお二方はもちろんですが、中村梅雀さんや吉田羊さんたちが怪人を演じてくれた。出ている俳優陣、参加したスタッフも最高。10話という長さは、監督をするのに映画数本分のエネルギーを注ぎました。図らずも僕の集大成的な作品になっています」
白石監督は本作で特撮映画の魅力に目覚めたそうだ。
「クリーチャーが出てくるようなオリジナル特撮作品を、いつか監督したいですね」
■樋口真嗣氏が語る『仮面ライダーBLACK SUN』、「仮面ライダーは自由を選ぶ叛逆者」
「樋口さんは人間の子ではなくて、映画の子なんです。映画から生まれたような存在。
それぐらいに映画や特撮が好きな人なんですよ」
こう白石監督から絶賛されるのが本作でコンセプトビジュアルを担当した、映画監督の樋口真嗣氏だ。
特撮映画の第一人者として知られる樋口氏は、どのような仮面ライダーを創造しようとしたのだろうか。
「変身して望まぬ姿と引き換えに、悪をも倒す力を手に入れることができる人間。その苦しみと絶望から這い上がる強靭な意志を持ち、自由を選ぶ叛逆者。そこにヒトが内在していることを忘れさせないライダー、という部分にこだわりました」
樋口氏にデザインで思い入れのある怪人を聞いた。
「スズメ怪人です。作品のリアリティラインは、この怪人のデザインで決まると思っていたので」
白石監督との共同作業を樋口氏はこう振り返る。
「アイデアやデザインが形になっていく段階で、まるで子供のように白石監督が目を輝かせる瞬間が大好きで、楽しみで、やり甲斐でした。
『現実と向き合う物語』(※本作)を生み出す苦しみの合間に、ふと、童心に帰る瞬間があり嬉しかったです」
最後に本作の楽しみ方をこうすすめる。
「体力勝負ですが、10話一気見するのがいちばん脳にくる気がします。まるで、逆らえないほどの水圧が迸り、太い河を押し流されるようです!」
ーーSTORYーー
現代の日本、人間と怪人は互いにヘイトスピーチやテロ行為を繰り返していた。かつて怪人ブラックサンとして戦った南光太郎(西島秀俊)は70歳となり、身を隠し暮らしていた。一方、1972年、光太郎と「ゴルゴム党」を結成した怪人たちは、権力側に寝返り、日本政府中枢を支配していた。
ある日、かつての同志・シャドームーン(中村倫也)が幽閉先から逃亡。怪人と人間の戦いが再び始まるのだった……。
しらいしかずや
1974年12月17日生まれ 『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010年)で映画監督デビュー。『凶悪』(2013年)、『孤狼の血』シリーズ(2018年、2021年)などの作品で高い評価を得る。『仮面ライダーBLACK SUN』では、全10話の監督を務めた
ひぐちしんじ
1965年9月22日生まれ 東京都出身 「平成ガメラ三部作」(1995~1999年)に特技監督として参加。監督作品に『ローレライ』(2005年)、『シン・ゴジラ』(2016年)、『シン・ウルトラマン』(2022年)など。本作ではコンセプトビジュアルを担当
(C)石森プロ・東映
(C)「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT
写真・木村哲夫(白石和彌監督)
※『仮面ライダーBLACK SUN』はAmazon Prime videoにて配信中