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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』山城新伍ーー初舞台で緊張するわたしに「冬美のセリフは情があっていい」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.12.03 06:00 最終更新日:2022.12.03 06:00

坂本冬美の『モゴモゴ交友録』山城新伍ーー初舞台で緊張するわたしに「冬美のセリフは情があっていい」

山城新伍、坂本冬美

 

 わたしが初めて舞台に立たせていただいたのは、デビュー2年めの師走、山城新伍さんが座長を務められた新宿コマ劇場での公演でした。

 

 当時、山城さんが司会をされていたテレビの帯番組に、猪俣(公章)先生がときどき出演していたこともあって、ついでというか、おまけで歌わせていただいたことはありますが、それ以外、わたしとは縁もゆかりもありませんでした。

 

 

 それなのに、何を気に入ってくださったのか「いい新人がいるんだよ」と、山城さんはいろんなところで坂本冬美を売り込んでくださったり、ご飯に連れて行ってくださったり……わたしに道を拓いてくださった恩人のお一人です。

 

 このときも、なんでもないことのように気軽に「舞台に出てみないか」と声をかけてくださり、恐れ多くも、山城さんの娘役として初舞台を踏ませていただくことになったのです。

 

 しかも、です。セリフを間違えちゃいけない。動きを間違えちゃいけない……と、いっぱいいっぱいだったわたしに、「大丈夫だから」と優しく声をかけ、濃紺の素敵な暖簾までプレゼントしてくださって。「冬美のセリフは情があっていい」という、このときのわたしには最大級のお褒めの言葉までいただきました。

 

ーー初舞台は緊張した?

 

 もちろんです。いや、でも、それ以上に、自分ではない誰かを演じているのが恥ずかしくて。そこには、100パーセント役者として演じきれていない自分を、照れるような目で見つめているもう一人のわたしがいました。

 

 一生懸命にやってはいるんだけど、お芝居をしているということに、どこか照れ臭さがあるーー。

 

 それがなくなったのは、つい最近です。

 

 石井ふく子先生に出会って、役を演じるというのはどういうことなのかを、言葉ではなく気持ちで教えていただき、桑田佳祐さんにいただいた『ブッダのように私は死んだ』で、演じながら歌うということを体験させていただき、ようやくわかったというか、照れずに舞台に立てるようになったというか。

 

 もっとも、本人がわかったと思っているときが、いちばん危なっかしいんですけどね(苦笑)。

 

 事務所の小林社長から、「おい、『紅白』決まったぞ!」と電話がかかってきたのも、この舞台の最中です。

 

「これから初出場の歌手が集まって記者会見を開くから、お前もすぐにNHKまで来い」

 

「来いって言われても、1時間後には夜の部が始まるんですよ」

 

「プロを手配したから大丈夫だ。いいな、すぐに来いよ」

 

 恐る恐る新宿コマ劇場の楽屋口から外に出ると、待っていたのは1台のバイクです。

 

 まさか……これで? 悪い予感ほど、よく当たります。

 

 ヘルメットを被らされ、後ろに跨ると、バイクは排気音を唸らせ、一路渋谷のNHKへ。

 

 時間にしてわずか5、6分ほどのタンデムでしたが、生きた心地がしませんでした。

 

 会見では、

 

「出場決定を聞いて一瞬、頭の中が空っぽになりました。とにかく、選ばれたからには一生懸命に歌います!」

 

 というようなことをしゃべった記憶がありますが、バイクの後ろに跨って、新宿から渋谷まで突っ走った恐怖体験が、数パーセント混じっていたような気もします(笑)。

 

 人に恵まれ、縁に恵まれ、歌に恵まれ、今のわたしがここにいる。それを忘れず、これからも一生懸命に歌い続けていきたいと思います。

 

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!

 

写真・中村 功 取材&文・工藤 晋

( 週刊FLASH 2022年12月13日号 )

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