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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』ミヤコ蝶々ーー初座長を務めたわたしに「冬美はキラキラした目をしてる」
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.12.10 06:00 最終更新日:2022.12.10 06:00
畏れ多くも、 “あの美空ひばりを超えた” という見出しがスポーツ新聞に躍ったのは、デビュー5年め、大阪・新歌舞伎座での座長公演が決まったときです。
まぁ確かに、ひばりさんが新歌舞伎座で初めて座長公演をされたのが27歳のときで、わたしはこのとき24歳。間違ってはいませんが、超えるなんてとんでもない。ひばりさんの存在はあまりにも遠すぎて、影すら見えない存在でした。
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第1部のお芝居は、山本周五郎先生原作の『ちいさこべ』から書き下ろしてくださった『花いちもんめ』。演出してくださったのが、圧倒的な存在感で、関西にこの人ありといわれたミヤコ蝶々先生です。
きっと、このお話をお聞きになったとき、蝶々先生は「坂本冬美? 新人? その演出をしてほしい?」……などなど、あれこれとお悩みになったことだと思います。
それでも快く引き受けてくださったのは、わたしに可能性の欠片を見つけてくださったから……と言いたいところですが(苦笑)、たぶん、おそらく……大人の事情というやつではないでしょうか。
『花いちもんめ』は、江戸の下町を舞台にした人情物語です。わたしが演じさせていただいたおりつは、大火のためにお店と両親をいっぺんに失いながら、お店再建のために頑張るという明るく健気な町娘です。
わたし自身には健気さは1ミリもないけど、頑張ることだけは得意です。できるかも!? いや、やっぱり無理だ……。毎日がその繰り返しです。どう演じたらおもしろいと思っていただけるのか、おりつの魅力を感じていただけるのか、そんなことを考える余裕はまったくありませんでした。
それもそのはずです。デビュー2年めに、山城新伍さんの舞台に出演し、1991年1月には、五木ひろし先輩の20周年記念公演にも出させていただきましたが……お芝居の経験はその2回だけ。そのわたしが座長なんて、とんでもない話です(苦笑)。
ミヤコ蝶々先生は、こんな素人に近いわたしに諦めることなく優しく、時には厳しく噛んで含めるように、一からご指導くださいました。
これは、1カ月という地獄のような公演が終わったあと、人づてに聞いた話ですが、蝶々先生は、「冬美はキラキラしたいい目をしている。若いっていうのは、それだけで素晴らしい」と、おっしゃってくださったそうです。
しかもです。蝶々先生のお力添えで、この『花いちもんめ』には古今亭志ん朝師匠が、2度めの座長公演『京の夕映え』、3度めの座長公演『春姿おんな一代纏』には、山村聰さんがご出演くださって。古今亭志ん朝師匠といえば、もう名人中の名人で、山村聰さんは時代劇にも現代劇にも欠かすことのできない名優でした。
当たり前ですが、皆さん口を揃えて「すごいね」と言ってくださいまして。「ありがとうございます」と、ニコニコ笑ってお返事しているものの、それがどれくらいすごいことなのか、若さゆえにいまひとつわかっていないのはわたしだけという、なんとも情けない記憶が残っています。
まわりに気を配れるほど大人ではなかったし、目の前のことにいっぱいいっぱいで、もしかしたら、失礼な態度を取ったことがあったかもしれません。
1カ月間にも及ぶ長い公演をなんとか無事に乗り切ることができたのは、わたしを見守り、教え諭してくださった蝶々先生のおかげです。
先生、本当にありがとうございました!
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋