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長澤まさみ『エルピス』闇が深すぎる結末に唖然、モヤモヤと同時に重い気持ちを残した見事な作品【ネタバレあり】

エンタメ・アイドル 投稿日:2022.12.27 16:13FLASH編集部

長澤まさみ『エルピス』闇が深すぎる結末に唖然、モヤモヤと同時に重い気持ちを残した見事な作品【ネタバレあり】

 

“正しいこと” を貫こうともがき続けた主人公が、最終的に清々しく「この世に本当に正しいことなんてたぶんない」という結論にたどり着いた『エルピス―希望、あるいは災い―』(フジテレビ系)。

 

 12月26日に放送された最終話(第10話)は、すっきりとした正解は示さないながらも、腐りきった世の中に一縷の希望の光を射しこませたラストだった。

 

 

 長澤まさみが主演する本作は、実在の複数の事件から着想を得ている社会派エンターテインメント。大洋テレビの女子アナ・浅川恵那(長澤)が、若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)とともに、12年前に起きた10代女性連続殺人事件で犯人とされた死刑囚の冤罪を晴らすために奔走する物語だ。

 

 ここからはネタバレありで最終話について語らせていただく。

 

■【ネタバレあり】主人公が勝ち取った結末とは…

 

 恵那と岸本は、大物政治家である大門雄二が、10代女性連続殺人事件の真犯人(永山瑛太)が逮捕されないようにかばっていた事実を掴んでいた。

 

 一方、大門は、目をかけている国会議員による女子大生レイプ事件の揉み消しもしていた。この被害女性は自殺しており、それを告発しようとした大門の娘婿が謎の死を遂げる。おそらく大門の差し金で暗殺されたのだ。

 

 恵那はメインキャスターを務めるニュース番組で、上司に隠したままゲリラ的に大門のレイプ揉み消しを報じるつもりだったが、そこに恵那の元恋人&元同僚で、今や大門の右腕として活躍している斎藤正一(鈴木亮平)が放送を止めに現れる。

 

 斎藤は私利私欲のためではなく、本心から日本の政治が混乱して国家的危機に及ぶことを回避するため、恵那を止めに来たようだった。しかし、そんな彼に一歩も引かない恵那は、10代女性連続殺人事件の真犯人逮捕の邪魔はしないでほしいという交換条件を出し、交渉成立。

 

 その日のニュースで、10代女性連続殺人事件の真犯人の存在と、死刑囚男性が冤罪であることを訴え、世論を動かした。

 

 エピローグは約1年後。死刑囚男性の冤罪が証明され無事に釈放されているシーンや、大門がマスコミに囲まれ悪事を追及されているシーンなどが描かれ、一応はハッピーエンドで着地した。

 

■「この世に本当に正しいことなんてたぶんない」

 

 エピローグでは、恵那との会話を述懐する岸本のナレーションが入る。

 

「『これから君はどうするの?』と浅川さんに聞かれて、『正しいことがしたいです』って答えた。そしたら浅川さんは言った。『あのね、岸本君。どっちが善玉で、どっちが悪玉とか、本当はないらしいよ。この世に本当に正しいことなんてたぶんないんだよ』。

 

『マジっすか? じゃあ、僕はどうすればいいんですかね?』って聞いたら、『だから正しいことをするのはあきらめて、代わりに夢を見ることにしようよ』と浅川さんは言った。

 

 そっか……と思ったけど、いったいどんな夢を見ればいいのかが、僕にはまだわからない」

 

 ――恵那を止めに来た斎藤は、大門を守る意義を説いていた。逆に、恵那がやろうとしている告発は、大局的に見ると国のためにならないと諭す。

 

 日本の未来を考えた場合、彼の主張は正論だし、国のための正義を貫こうとしているようにも見える。確かに恵那のやろうとしていることは、レイプ事件や殺人事件の被害者やその家族・友人らのための行動だが、引き換えに日本国民1億2000万人がデメリットをこうむるリスクがあった。

 

 恵那は斎藤の主張を理解したうえで、彼の指し示した道が正義なのであれば、もう自分は正しい道を歩まなくてもいいと腹をくくったのだろう。なぜなら、斎藤の主張は正論かもしれないが、普通に考えればおかしいからだ。

 

 レイプ事件や殺人事件を揉み消すことが正義としてまかりとおるなら、それはもう、今の日本がおかしくなっている証拠ではないのか。

 

■モヤモヤが残る終幕は脚本家の狙いどおり?

 

 恵那がたどりついたのは、世の中は善玉・悪玉と簡単に二極化できるものではないし、全方位で正しいことなんて存在しないという悟り。ポジティブな諦観だ。

 

 実際、恵那と岸本が勝ち取った結末も、全方位のハッピーエンドにはなっていない。

 

 大門が揉み消した女子大生レイプ事件の議員はきちんと罰せられたのかや、娘婿の死の謎がきちんと解明されたのかは描かれず。

 

 また、連続殺人事件の真犯人に薄々気づいていながら、保身のため無実の男性を死刑囚にでっち上げた刑事たちや、買収による虚偽証言で冤罪に導いた男の罪が、きちんと問われたのかも描かれず。

 

 そして、なんと永山瑛太が演じていた真犯人が逮捕されるシーンも描かれなかった。

 

 端的に言うと、非常に非常にモヤモヤが残る終幕で、唖然としてしまった。

 

 だが、それは脚本家や制作陣の意図するところだったように思う。恵那と岸本によって希望の光が射しこんだが、その光が照らせたのはほんの一部分でしかなく、この国がいかに深淵の闇のなかにあるかということを、浮き彫りにしたからだ。

 

 モヤモヤと同時に、視聴者に重い気持ちを残した見事な作品だった。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『日刊SPA!』に恋愛コラムを連載中。ほに『現代ビジネス』『文春オンライン』『集英社オンライン』『女子SPA!』などにコラムを寄稿

( SmartFLASH )

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