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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』渡 哲也さんーー家に帰ると、なぜかいらして、もう頭の中は真っ白
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.02.04 06:00 最終更新日:2023.02.04 06:00
人はちょっと驚いたとき、思わず「わぁ!」とか「あぁ、びっくりしたぁ」という声が出てしまいます。
それが、もう1段階アップすると一瞬体が固まり、さらにギアがアップすると、驚愕のあまり1mほど後ろに飛びのいてしまうことがあります。
「女は結婚より仕事よ」と胸を張っていた夏ちゃん(伍代夏子)から、杉さま(杉良太郎)と結婚する……と告白されたときが、まさにそうでした(笑)。
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でも、まだ上があります。もうこれ以上ないというほど驚いたときは、顔から表情が消え、頭の中は真っ白になり、時間が止まってしまいます。
そう、あれは、わたしがデビューする前……猪俣公章先生の内弟子とは名ばかりの運転手兼お手伝いさんをしていたころのことです。
「ただいま帰りました」
先生に言いつけられた用事を済ませ家に帰ると、なぜかそこに渡哲也さんがいらして。もう、頭の中は真っ白。ここはどこ? わたしは誰? 状態です。
だって、大スターの渡哲也さんですよ。作詞家の大先生や作曲家の大先生、テレビで見る歌手の先輩方がいらっしゃるのは……それだけでも十分にすごいことですが、まあわかります。
サンバを踊るお姉さま方が、豚を捌く包丁を手にした姿を見たときにはさすがに驚きましたが、先生の嗜好を考えると、それもまぁそうだよなという感じがします。でも、だけどーーあの渡哲也さんですよ。
ちょっと、想像してみてください。家に帰ったら、いきなりそこに渡哲也さんがいるという場面を。どれだけわたしが驚いたか、わかっていただけると思います。
「こいつは、これからデビューさせる坂本冬美というんだよ」
猪俣先生が紹介してくださり、渡さんから「頑張ってください」と、お声をかけていただいたような気もするんですが、本当にあったことなのかどうか、驚きすぎて記憶がモゴモゴで。一緒に撮っていただいた写真が残っていなかったら、本当に夢だったんじゃないかと自分を疑っていたところです(笑)。
その後、何度かテレビの歌番組でご一緒させていただく機会がありましたが、その都度、渡さんはニコッと笑いながら「頑張ってる?」と、優しく声をかけてくださって。今思い出しても、心がほんわかしてきます。
そういえば、一度だけ渡さんのご自宅にお伺いしたことがあるのですが、そのとき奥様から、かわいい赤いバッグをプレゼントしていただいて。渡さんと奥様が仲よさそうに話している姿を拝見しながら、 “いつかわたしもこういう家庭を持てたらいいなぁ” と、叶わぬ夢に想いを馳せていました。
渡さんだけじゃありません。山城新伍さん、梅宮辰夫さんといった昭和の大スターの方々にも、ずいぶんとかわいがっていただきましたが、それもこれも、すべてわたしが猪俣先生の弟子だからです。繊細で、豪快で、いつもお酒ばっかり飲んでいた先生ですが、やっぱりすごい先生です。
あっ! 内弟子時代のわたしを知っているスターがもう一人いました。『北国の春』の千昌夫先輩です。
「猪俣先生から、今度新人がデビューするから聴いてやってくれと言われて、聴いたんだけど……こりゃ無理だと思ったんだよなぁ」
ガハハハと笑いながら話す千昌夫先輩のことも、わたしは、よぉく覚えていますから。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋