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奈緒『あなたがしてくれなくても』不倫を “禁断の純愛” というファンタジーに見せる “あざとさ”

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.05.11 11:00 最終更新日:2023.05.11 11:00

奈緒『あなたがしてくれなくても』不倫を “禁断の純愛” というファンタジーに見せる “あざとさ”

 

 冷めた視点で客観的にこのドラマを観ると、「不倫を “禁断の純愛” として肯定するためのお膳立てが至れり尽くせりだなぁ」という感想になった。

 

 先週木曜に第4話が放送された奈緒主演『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)のことだ。

 

 

 主人公・吉野みち(奈緒)は、結婚して5年になる夫・陽一(永山瑛太)と基本的に仲はいいものの、2年間セックスレス。それが原因で夫婦間がギクシャクしてきていた。

 

 一方、みちの会社の上司・新名誠(岩田剛典)は、愛妻家のイメージを持たれているが、実は彼も妻・楓(田中みな実)とセックスレス。同志のように共感し合ったみちと新名は心の距離を縮めていき――というストーリー。

 

 第4話終了時点で、みちと新名はまだ肉体関係を持っていない。会社の研修旅行の夜に、最後の一線を越えそうになるも、みちが夫のことを思い出し泣いてしまったからだ。

 

TVerなどの見逃し配信が第3話で1000万再生突破

 

『あなたがしてくれなくても』の世帯平均視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)は、第1話から第4話まで5.8%、4.9%、5.0%、5.2%と低調なものの、TVerなどの見逃し配信で快進撃を続けている。

 

 4月27日に放送された第3話の見逃し配信が、放送から5日後の5月2日に381万再生に到達し、この時点で、第1話から第3話までの放送後1週間における見逃し配信の累計が1000万再生を突破して話題になっていた。

 

 フジテレビ作品で、第3話までで1000万再生を突破したのは、『silent』(2022年)、『ミステリと言う勿れ』(2022年)に次ぐスピード記録だという。

 

 また、TVerのお気に入り登録者数(5月9日現在)を見ると、大台突破の115.1万人を記録。

 

 今期の話題作である福山雅治主演の日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―』が84.4万人、木村拓哉主演の月9『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)が116.7万人なので、福山をリードし、キムタクに肉薄しているということになる。

 

 さて、視聴率がふるわないものの、見逃し配信の再生数が絶好調だという要因は、容易に想像できる。

 

 性事情のきわどいセリフが飛び交い、濃厚なラブシーンも豊富なため、リビングのテレビでリアルタイム視聴するには、ほかの家族の目もあって気まずいのだろう。一人きりの時間に、スマホやタブレットPCなどで視聴しているファンが多いに違いない。

 

■不倫を “きれいごと” に昇華させようとする制作陣

 

 大前提として、この作品が人気になる理由はわかるし、毎回ドキドキしながら楽しんでいるファンの感性を否定するつもりは毛頭ない。

 

 しかし、恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラーを生業にしている筆者の個人的な意見としては、申し訳ないが全然ハマれないのだ。

 

 筆者は「不倫はよくないことだから」なんて偽善者ぶるつもりはない。それは、不倫は、結局は自己責任で、当事者間の問題を他人がとやかく言う必要はないと思っているからだ。

 

 では、どうして筆者がこの作品にハマれないかというと、不倫という行為を “禁断の純愛” という美しいファンタジーに仕立てあげるため、あの手この手の設定や展開がてんこ盛りなところに萎えたのだ。

 

 みちの側も新名の側も、世間の “セックスレスあるある” を上手に描いており、そのリアリティから同情や共感をする視聴者が多いのは納得できる。だが、その見せ方があまりに周到すぎて、もはやあざとく感じられてしまった。

 

 要するに、不倫はどんな事情があろうと “きれいごと” ではないのに、この作品では “きれいごと” に昇華させようとする制作側の魂胆が、透けて見えているのだ。とにかく「かわいそうな2人が不倫するのは仕方ない」と思わせる要素が、きっちり揃いすぎている。

 

■主人公の夫が先に裏切るので大義名分もばっちり

 

 みちも新名も夫婦間のセックスを望んでいるのだが、パートナーに拒まれている。

 

 みちの夫は、彼女のことを本当に好きで愛しているが、性欲の対象とは見られなくなっている。新名の妻は、彼に感謝をしており不満はないが、ワーカホリックなキャリアウーマンなので、妊娠したら仕事での地位をなくしてしまうという強い不安を抱いている。

 

 みちも新名も、きちんと夫婦間で愛し合いたいが、相手に避けられているため、さびしい者同士で求め合わざるをえないというエクスキューズ(言い訳)は十分。

 

 そして、第4話のラストシーンで、新名が今後は指一本触れないことを約束したうえで、「だから今までみたいにそばにいてほしい。俺にはあなたが必要なんです」と懇願すると、みちは「新名さんのそばにいます」と応えていた。

 

 このシーンのポイントは、みちの声で「私は卑怯者だ」というナレーションが入っていたこと。主人公自身がクズであることを認めており、落ち度を自覚しているキャラクターに対して、他者(視聴者)は糾弾しにくくなるものだ。

 

 さらに、みちの夫は、自分が店長を務める喫茶店の女性店員と肉体関係を持ってしまった。みちはまだ夫の不倫を知らないのだが、視聴者は先に夫が裏切ったことを見せつけられたので、ますますみちと新名の関係を擁護する大義名分ができあがっている。

 

 こうして、みちをとことん悲劇のヒロインにすることで、かわいそうなみちと新名の不倫を、視聴者が応援しやすくなる仕組みを見事に作り上げている。

 

 つまり、筆者はみちや新名といった登場人物たちの言動に萎えているわけではなく、不倫を美しいファンタジーに見せるための制作陣の用意周到なあざとさに萎えているのだ。

 

 とはいえ、今夜放送の第5話も、2人の “禁断の純愛” はファンたちを最高にドキドキさせてくれるのだろう。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

( SmartFLASH )

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