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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』五木ひろしさんーー、楽屋で手渡された「お年玉」の中身に “スター” の貫禄
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.09.30 06:00 最終更新日:2023.09.30 06:00
わたしが生まれる前(1965年)にデビューし、今も軽快に第一線を走り続けていらっしゃる五木ひろし先輩は、天賦の才に加えて、不断の努力をし続けてこられた尊敬すべき存在です。
縦のラインに厳しい演歌の世界では、わたしごときが気軽にお話しさせていただけるような方ではありません。
五木さんがどんな反応をするのかを見てみたいという、たんなるいたずら心で、わたしのことを “冬美ちゃん” と呼んでくれるももクロちゃん(ももいろクローバーZ)たちに、「今度、五木さんに会ったら、 “ひろしちゃん” と呼んでみて」などと言っていい方ではありません。
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いいはずはないのですが、テレビや舞台で何度も共演させていただいているうちに、どんどんとその距離感が縮まり、今では親戚のお兄ちゃん的な感じがしています。
もっとも、わたしが一方的にそう思い、五木さんが笑って許してくださっているので、それに甘えているというのが本当のところですが(笑)。
「冬美の目は僕に似ているから」と、細い目がくっきりと見えるようなアイラインの引き方を教えてくださったのも五木さんでした。
デビュー5年めに、初めて座長を務めさせていただくことになりました。その前に「勉強してこい!」という社長の鶴のひと声で、出演させていただいたのが、五木さんのお正月公演です。
カチンコチンに緊張しながら楽屋にご挨拶に伺い、「よろしくお願いします」と、深々とお辞儀をしたわたしの目の前に差し出されたのは「お年玉」と書かれたのし袋です。
そそくさと楽屋に戻って中を開けるとーー1万円札が1枚、2枚、3枚……福沢諭吉先生が10枚です。ちょい役で、無理やり出させていただいたわたしにだけ、特別というわけではありません。来る人、来る人、みなさんにです。
ーーこれが、スターと呼ばれる人なんだ……。
嬉しさと驚き。羨望と憧憬。本物のスターとはこういう人のことを言うんだと教えていただきました。
1カ月に及ぶ長い劇場公演のペース配分に悩んでいたわたしに、「1回、1回、全力投球。毎日出し切って、また新たな気持ちで臨めば、自然とエネルギーが湧いてくるんだよ」と、教えてくださったのも五木さんです。
ピアノ、ドラム、サックス、フルート、ギター、トランペット、尺八、三味線、お琴……自分に厳しく、きわめるまで徹底的に練習をされる五木さんの辞書には、 “中途半端” という言葉はありません。
あぁ、それなのにです。こんな素晴らしい先輩をずっと、そばで見させていただいているのに、後輩のわたしはというと、これはもう、お恥ずかしい限りです。
五木さんからいただいたお琴は部屋のオブジェと化し、4年ほど前に「頑張ってやってみろ」と手渡された三味線も、いっこうに上達せず……。
「いいのよ、冬美さん。冬美さんは亀でいいの」
お三味線の先生からかけていただいたお言葉を胸に、わたしなりに努力は続けているつもりですが、ひとつ覚えたら、ひとつ忘れるというありさまで。まったく、困ったものです(苦笑)。
でも、これだけは信じてください。わたしだって、頑張ってはいるんです。どう頑張っても、五木先輩にはなれませんが、先輩が守り続け、次の世代にバトンを渡そうとされている演歌・歌謡曲の心は、わたしは、わたしなりに受け止めております。
五木先輩が教えてくださったひとつひとつが、私たち後輩の財産であり、支えとなっています。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋