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『いちばんすきな花』多部未華子ら主人公4人での「恋愛展開」は絶対やめてほしい…目指すべきは『サザエさん』的マンネリ

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.10.26 11:00 最終更新日:2023.10.26 11:00

『いちばんすきな花』多部未華子ら主人公4人での「恋愛展開」は絶対やめてほしい…目指すべきは『サザエさん』的マンネリ

 

 脚本家がなにを描きたいのかはひしひしと伝わってくるし、そのテーマは議論する価値が十分にあるとは思う。しかし、それをエンタメ作品として “おもしろいドラマ” にできるかどうかは別問題で、今のところ大ヒットとなる気配は薄い。

 

 先週木曜に第2話が放送された『いちばんすきな花』(フジテレビ系)は、昨年10月期に社会現象を巻き起こした『silent』(同)の脚本家とプロデューサーが再タッグを組むとのことで、放送前から大きな期待を集めていた作品だ。

 

 

 多部未華子松下洸平今田美桜神尾楓珠の4人による “クアトロ主演” という新しいスタイルのドラマで、「男女の間に友情は成立するのか?」をテーマにしている。

 

 公式サイトのイントロダクションによると、《年齢も性別も過ごしてきた環境も違う4人の男女が紡ぎ出す、見る者の心を静かに揺さぶる新たな時代の“友情”の物語。同時にそれは、“恋愛”も“友情”もぜんぶ含めた“愛”の物語。》とのことである。

 

■『silent』と本作の脚本家の才能とは?

 

 多部演じる塾講師・潮ゆくえは、唯一心を許せた本当の意味での男友達から、結婚することになってもう会えないと告げられ、悲しみに暮れる。

 

 松下演じる出版社勤務の春木椿は、結婚目前だった恋人を、その彼女の男友達に奪われてしまい、新婚生活を送るはずだった新居で独り身に。

 

 今田演じる美容師・深雪夜々は、純粋に友達になりたいのに「顔がいい」せいで、男たちから勝手に恋愛的な下心を持たれてしまう。

 

 神尾演じるイラストレーター志望の佐藤紅葉は、友達っぽくつながっている人はたくさんいるが、1対1の本音で向き合える相手は1人もいない。

 

 第2話までに、それぞれトラウマを抱え “生きづらさ” を感じていた彼・彼女らが偶然出会い、4人でいる空間の心地よさを感じるまでが描かれた。

 

 本作において特筆すべきは、主人公たちのキャラクターが誇張されていないこと。

 

 この手のトラウマを抱えているタイプの主人公は、たとえば周囲から浮いているように描かれ、“ぼっち感” や “変人感” を過剰に演出されることが多いが、本作は違う。

 

 4人とも、表面的には友達がいたり、職場でもそれなりに馴染んでいたりして、極端な陰キャやコミュ障として描かれていない。インパクトやわかりやすさを重視する作品とは真逆のキャラクター造形で、令和の時代における等身大の “生きづらさ” を絶妙に描いている。

 

『silent』と本作の脚本家である生方美久氏は、独特な視点で繊細な心理に気づき、人々が心に抱えているモヤモヤを言語化するのが非常にうまい。キャラクターたちの心の機微を表現する才能に長けている作家なのだろう。

 

■セーフティゾーンのままであってほしい

 

 ただ冒頭でもお伝えしたとおり、第2話までの視聴感でいうと、この作品が『silent』級に跳ねる気配は薄い。テーマや心理描写が秀逸でも、“おもしろいドラマ” になるかはまた別の話で、本作にはグイグイと惹き込まれていく感覚があまりないのだ。

 

 実は、生方氏のキャラの描き方がうますぎることこそ、アダとなっている気もする。キャラが誇張されていないぶん、生々しいほどにリアルで、観ていると真綿で首を絞められていくような息苦しさを感じてしまう。

 

 また、主人公たちの “生きづらさ” を表現するためだろうが、彼・彼女らの周囲に性格の悪い人間が多すぎるのも息苦しい要因のひとつだろう。

 

 その性格の悪さも絶妙で、デフォルメされた激烈なクズが出てくるわけではなく、現実社会でも実際にけっこういるレベルの性格の悪い人間が、主人公たちの周囲に多く配置されており、鬱々としてしまう。

 

 だが、その重く暗い雰囲気は、第2話後半でかなり払拭された。というのも、主人公たちが、4人が揃う空間では居心地のよさを感じていく展開になったからだ。この空間がいかにすばらしい「セーフティゾーン」なのかが、見事に描き出された。

 

 今後、どのようなストーリーになっていくのかはまだわからないが、筆者はこの4人のなかでの恋愛展開にはならないでもらいたいと思っている。

 

 せっかく性差や年齢を越えた友情が芽生え始め、彼・彼女らにとって心が穏やかになるセーフティゾーンができたのに、そこにヒビが入ったり荒れてしまったりする展開は個人的にあまり観たくない。

 

 4人以外の外部の人間関係で惚れた腫れたの恋愛展開があってもいいが、この4人の空間は、いつまでも外部での悩みや苦痛を心置きなく吐露でき、そして浄化していける場所であってほしい。

 

 突拍子もない提言に聞こえるかもしれないが、『サザエさん』で家族が食卓を囲む団らんシーンを目指すのがいいかもしれない。サザエさん一家は、“家族” というコミュニティ外の “ご近所” や “会社” や “学校” での出来事を、みんなで夕食を囲みながら報告し合って、ああだこうだと感想を述べている。

 

『いちばんすきな花』の4人も、この先ずっと仲のいい友達のままでテーブルを囲み、毎回毎回 “外” で起きた人間関係のトラブルなどを報告しあい、語り明かす。

 

 今夜放送の第3話以降、そういう、いい意味でのマンネリズムを感じさせる会話劇で楽しむドラマになっていくことを期待している。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

( SmartFLASH )

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