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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』谷村新司さん――亡き父を思い追懐の涙を流した『人時』はわたしの大事な宝物

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.12.23 06:00FLASH編集部

坂本冬美の『モゴモゴ交友録』谷村新司さん――亡き父を思い追懐の涙を流した『人時』はわたしの大事な宝物

坂本冬美、谷村新司さん

 

「新曲って、どうやって作られていくんですか?」

 

 イベントなどで、こんな質問をいただくことがあります。ほかのジャンルのことはわかりませんが、演歌の場合、デビューしてからしばらくは、作詞家、作曲家の先生からいただいた曲をそのまま大切に歌うというのが、新人のあるべき姿です。

 

 

「これが、お前のデビュー曲『あばれ太鼓』だ!」と、自信満々におっしゃった師匠・猪俣公章先生のお言葉に、「これは流行らないと思います」などと暴言を吐くのはもってのほか。

 

「バカ野郎! 100年早い!!」

 

 と、でっかい雷を落とされるのも当然です(笑)。

 

 そこからパワーバランスがちょっとずつ変化し、「こんな歌を歌いたい」というわたしの意見も採用されるようになり、チーム坂本冬美の総意として、作詞家の先生、作曲家の先生にお伝えして、新曲が出来上がってくるというのが、ノーマルなかたちです。

 

 でも、です。ときにはすべてを委ね“おまかせで!”と、曲をお願いすることもあります。谷村新司さんにお願いしたシングル、父と娘を想って綴られた『人時』もそんな1曲でした。

 

 わたしのなかの父は、「行ってくる」と言って車で家を出たきり、帰らぬ人となってしまった深い哀しみとともにあります。

 

 谷村さんに、父のことをお話ししたことはありません。もしかしたら、誰かからお聞きになり、それが谷村さんのお気持ちに引っかかったのかもしれません。歌詞には、かつて過ごした父との時間を思い出させてくれる言葉がいくつも連なっていました。

 

 谷村さんのお声で吹き込まれたそのデモテープを聴きながら、わたしは泣いていました。ぽろりと転がり落ちた涙の粒が、あとからあとから頬を伝っていきます。

 

 谷村さんが立ち会ってくださったオケ録りのときも、その感情を抑えることができませんでした。

 

――泣くな、わたし。泣くんじゃない。

 

 必死に言い聞かせても、涙は止まりません。

 

 谷村さんは、そんなわたしの横にいてくださいました。何も言わず、ただボロボロと涙をこぼすわたしを温かく包み込むようにずっと隣にいてくださいました。

 

 その谷村さんの訃報が公式サイトで伝えられたのは、10月16日です。

 

 ちょっとお体の調子がよくないというのは聞いていましたが、すぐに元気になってコンサートツアーを再開されるんだろうなとばかり思っていましたから、突然の訃報を耳にしたときは束の間、言葉を失ってしまいました。

 

 谷村さんがお亡くなりになったのは10月8日。何も知らなかったわたしは、その2日後に生放送されたNHK『うたコン』で、谷村さんが山口百恵さんのためにお書きになった『いい日旅立ち』を歌わせていただきました。「谷村さんがこの放送を見ていてくれたら嬉しいな」と思いながら……。

 

 この日、同じステージに立っていた堀内孝雄さんは、どんな気持ちでわたしの歌をお聴きになっていたのでしょう。どんな思いで、『遠くで汽笛を聞きながら』をお歌いになっていたのでしょう。想像しただけで胸が引きちぎられそうです。

 

 お会いすると、「元気?」と声をかけてくださるだけではなく、不安そうな顔をしているわたしに「大丈夫! 行ってらっしゃい!」と、ポンと背中を押してくださったり、ときには「いいお着物だね」とか、「おもしろい帯の結び方をしているね」と、褒めてくださった谷村さん……。

 

 谷村さんからいただいた『人時』は、わたしの大事な宝物。これからも、心をこめて歌わせていただきます。

 

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!

 

写真・中村 功
取材&文・工藤 晋

( 週刊FLASH 2024年1月2日・9日・16日合併号 )

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