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話題作に次々出演の栗原英雄 ケガも絶えなかった劇団四季で培った「リアリティのある芝居」とは

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.02.11 11:00 最終更新日:2024.02.11 11:00

話題作に次々出演の栗原英雄 ケガも絶えなかった劇団四季で培った「リアリティのある芝居」とは

栗原英雄

 

「初めて食べたのが、祖母がそば粉から打ってくれた蕎麦。ボソボソッと切れてしまう感じだったんですが、その味が忘れられなくてね」

 

 ビールを美味しそうに飲みながら話す栗原英雄は、蕎麦をこよなく愛している。今回訪れた谷中にひっそりと佇む「千尋」は、栗原がひと仕事終えた際に、自分へのご褒美として訪れる特別な店だ。

 

 

「大将の目利きが素晴らしくて、蕎麦前は何を食べても美味しいんです。最初にビールを飲んで日本酒で蕎麦前をつまみながら、最後に十割せいろで締める。昼からのそんな時間が最高の贅沢です」

 

 日替わりの蕎麦前は、どれも絶品。店に置いてある “マイおちょこ” で日本酒を味わいながら、栗原は役者を目指したころのことを語り始めた。

 

「中学の後半ぐらいから、自分の体を楽器のように使う職業に就きたいと考えるようになって。そのころから東京に出ては舞台を観ていたので、役者になりたいと考え始めました。高校の大学進学クラスに在籍していたのですが、役者になりたいので進学しないと話しまして。教頭先生に反省文を提出しました」

 

 そんなある日、劇団四季の創設者の一人である浅利慶太氏の記事を目にする。

 

「『うちは舞台で食える』と書いてあったんですよ。踊りも何もやったことがなかったのですが、昔から声だけはデカかった。それで劇団四季の研究所の試験を受けて合格しました」

 

 入団してから約2年、初舞台の演目は『コーラスライン』。

 

「とにかく緊張しました。毎日、本番前と公演が終わった後に、ずっと踊りの特訓をしました。劇団だけでなく外のレッスンにも通ううちに、踊りは自分の武器の一つになりました。そのころには、入団に反対だった父も舞台を観に来てくれるようになりました」

 

 限界を超えて演じないと感動してもらえないーー。

 

「生きるか死ぬかの覚悟でやっていた時代だった」という稽古では、腰椎捻挫、頚椎捻挫とケガも絶えなかった。

 

 24歳のときに抜擢された『ひかりごけ』では、創立メンバーの浅利慶太氏、日下武史氏、水島弘氏、井関一氏の4人と、山荘で稽古を積んだ。食事以外はすべて稽古。外出は許されなかった。

 

「こうして叩き上げられましたが、このときのプレッシャーはすごかった。でもキャリアを積んで思うんですが、プレッシャーの対処法はないんですね。それだけのことをやっているからで、プレッシャーはあって然るべきものなんです。そのために稽古を重ねて叩き込む。そうすればどんな状況になっても対応できるんだと思います」

 

『エクウス』『ライオンキング』『キャッツ』などの名作に出演を続け、劇団四季には欠かせないメンバーとなっていく。そんななか、母が病いを患った。

 

「劇団四季は外の舞台にもテレビにも出られないんです。僕の姿を両親に見せるには、テレビに出るしかないと思い始めて。同時に、困難なことが起きてもやり抜いて生きていく体力のタイムリミットが50歳だと。このとき僕は44歳。新しいことを始めるなら、今だと思いました」

 

 2009年、25年間在籍した劇団四季を退団。新しい一歩を踏み出した。多くの舞台を観て歩き、今まで出会ったことのない人との仕事を求めた。そんなとき演出家・小川絵梨子氏の舞台に出演し、「演技のリアリティ」に気づかされた。

 

「小川さんに『なぜミュージカルの人は、ものを考える芝居で斜め上を見るんですか? 人は考えるときにそうしますか?』と指摘されたんです。これは知らぬ間に僕に根づいてしまった演技でした。考える芝居をするときは、ただ考えるだけでいい。それだけでこの人は考えているなって見えるんですよ」

 

 映画監督・藤井道人氏との出会いは新鮮だった。

 

「藤井さんが主宰していたワークショップに参加して、オーディションを受けて『けむりの街の、より善き未来は』(2012年)という長編映画に出ました。まわりは映画畑の若い子ばかりで、僕のことは誰も知らない。キャリアを積んでくると色眼鏡で見られてしまうことが多いので、知らない人とやるのは新鮮でした。映像では演技の瞬発力が必要なんだということを学びましたね」

 

 その後、イギリス人演出家のトム・サザーランド氏が演出したミュージカル『タイタニック』に出演。その舞台を、大河ドラマ『真田丸』(2016年)の俳優を探していた三谷幸喜氏が観覧に訪れていた。

 

「三谷さんから共演者のシルビア・グラブさんづてに『栗原さんはテレビに興味ないか聞いておいて』と伝言があって。『あります』と伝えてもらったら、1週間後ぐらいに、NHKから事務所に電話がありました。すぐ斬られて死んでしまう役だろうと話していたんですが、草刈(正雄)さんの弟・真田信尹(のぶただ)だと聞いて、えーっ!と。『タイタニック』をご覧になった三谷さんがすぐにNHKに電話をして『真田信尹が見つかったよ』と言ってくださったそうです。『僕を発掘してくれてありがとうございます』とお伝えしたら『そんなこと言わないでください。僕たちが見逃していたんですよ』とおっしゃってくださって。嬉しかったですね」

 

 こうして『真田丸』でテレビドラマ初出演を果たした。撮影現場では「撮影用語」がわからず、戸惑いの連続。さらに乗馬シーンには苦労した。

 

「トレーナーさんに『普通に走れるまでには70鞍(くら)ぐらい練習が必要』と言われたんですが、台本には『信尹走る』と書いてある。10鞍ぐらいから走る練習をして、リズムが取れないとお尻を鞍に打ちつけるので、お尻から血を出しながら練習しました(笑)。それ以来乗馬は趣味になり、今でも通っています」

 

 その後、『鎌倉殿の13人』(2022年)では、13人の一人・大江広元を演じ、 “月9” 『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(2023年、フジテレビ)にも出演。2月4日からは、白井晃が演出する舞台『エウリディケ』に出演している。

 

「主人公・エウリディケの父親を演じていますが、白井さんは本当に演劇が大好きで、『もう一度トライさせてください』と諦めない方。稽古でいろいろ試して変わっていく部分も含めて、楽しみです」

 

 劇団四季退団後、多くの人と出会い、刺激を受けてきた。

 

「わかったのは、100%リアリティのある演技を求めても無理ということ。だって異文化の役で、100%なんて無理じゃないですか。でも、その役にある心のひだとかそういうものを、何%かでも理解しようとして自分の中で探して見つければ、その瞬間にリアリティが生まれるんです。そうやって目の前にある役と誠実に向き合うだけです」

 

 話している間に、「千尋」自慢の蕎麦が茹で上がった。蕎麦を喉に流し込む栗原は、ひと仕事終えた後の晴れやかな顔だった。

 

くりはらひでお
1965年7月4日生まれ 栃木県出身 1984年、「劇団四季」入団。『コーラスライン』でデビューし、『ウエストサイド物語』『ライオンキング』などで活躍。2009年に退団後は『アンタッチャブル』『タイタニック』『レディマクベス』など舞台を中心に活動。大河ドラマ『真田丸』(2016年、NHK)でドラマ初出演。以後、連続テレビ小説『なつぞら』(2019年、NHK)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年、NHK)、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(2023年、フジテレビ)など話題作に出演し活躍。舞台『エウリディケ』(2月4~18日・世田谷パブリックシアター、24、25日・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)に出演中

 

【 千尋 】
住所/東京都台東区谷中3-13-22
営業時間/11:30~14:30
定休日/不定休

 

写真・野澤亘伸

( 週刊FLASH 2024年2月20日号 )

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