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『セクシー田中さん』事件、漫画家・里中満智子氏の思いは…「原作への愛情があれば改変も」「なにもかも瞬間で判断」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.02.24 11:00 最終更新日:2024.02.24 11:00

『セクシー田中さん』事件、漫画家・里中満智子氏の思いは…「原作への愛情があれば改変も」「なにもかも瞬間で判断」

里中満智子氏(写真・時事通信)

 

 日本テレビによってドラマ化された漫画『セクシー田中さん』をめぐるトラブルで、漫画家の芦原妃名子さんが急死してから約3週間経った2月17日。漫画家・山田玲司氏が運営するYouTubeチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で、3時間以上にわたり生配信された番組が、これまで37万回超も視聴されている。

 

 これは山田氏をホストに、里中満智子氏、湊よりこ氏、森川ジョージ氏という、業界でもトップクラスの人気と実力を持つベテラン漫画家がゲスト出演し、それぞれの経験から、『セクシー田中さん』問題の核心に切り込む画期的な番組だった。

 

 とりわけ、日本漫画家協会の理事長を務める里中氏の、冷静でありながら温かな語り口は視聴者の気持ちをつかんだ。この動画には1300ものコメントがつき、そこには《里中満智子さん初めて拝見しましたがかっこよすぎた そして作品が読みたくなった》《こんな大人に、というかご高齢になってもこういう話し方ができる歳のとり方をしたいです》といった声も寄せられている。

 

 

 そこで、本誌は里中氏に話を聞いた。尊敬する手塚治虫の『鉄腕アトム』のドラマ版を幼少期に見て以来、「漫画と映像は別物」という思いが、ずっとあったという。

 

「幼心にも、とにかくがっかりしたことをよく覚えています。手塚先生ご自身が虫プロを立ち上げられ、アニメ化もされましたが、そちらも作品全体に漂う独特の暗さが除かれ、清く正しく明るいアトムになっていた。いろいろな大人の思惑が重なり、そう変わってしまうんだ、と思春期の私は思ったんです」

 

 里中氏は、これまで自分でも数え切れないほど、おそらく700~800作品を手がけてきたという。1970年代の代表的長編『あした輝く』や『愛情の設計』は映画化され、『アリエスの乙女たち』は1973年の連載開始から14年の歳月を経て、フジテレビ系でドラマ化された。また、1997年発表の『鶴亀ワルツ』も、翌年にはNHKでドラマになっている。

 

 いち読者・いち視聴者として、原作と映像作品それぞれ「別物として楽しもう」というスタンスでいたため、自作の映像化の際も極端に落胆したり、不満に思ったことはないという里中氏だが、一方で作品に強い愛着を持つ作家の立場もよく理解している。

 

「作品を子どもに喩える方もいて、もちろんそれもわかります。ただ、これも年齢とか性格とか、作品によっても変わるでしょう。私にも、なるべく原作どおりにしてほしい、との思いが強かったケースはあります。

 

 ただ、私自身は制作サイドには何も言いません。関わってくださるみなさんがハッピーなら、それでいいと思っています」

 

 里中氏が作品を映像制作側に託す際、気にするのは「原作に愛情を持ってくれているかどうか」だという。それさえあれば、大胆な改変がなされても、別個の作品として受け入れられるからだ。

 

「私は原作つきの作品を手がけたことはほとんどないんですが、たとえば古くからの民話を漫画化する際にだって、自分らしさをどこか入れ込むでしょう。和食の原材料を提供したつもりでも、制作者がエスニック料理に変えたいという場合もある。

 

 原作者ができあがった映像を気に入るかは、完成度だけでは決まりません。携わる人が原作を好きでいてくれるなら、その想いは伝わってきます。結果、映像作品がコケても、悪い流れにはならないでしょう」

 

 芦原さんが『セクシー田中さん』ドラマ化の際の “改変” に納得せず、自ら関与した結果、自死を選ぶほど追い詰められたのも、作品や作者に対する敬意が制作側から十分伝わってこなかったからかもしれない。

 

 里中氏は、『セクシー田中さん』が連載中にもかかわらずドラマ化されたことで、余計な重圧が芦原さんにかかったのだろうと推察する。

 

「私の場合、どの原作も完結してから映像化されたので、いったん描き終えたら、子どもも巣立ってしまうと、そんな気持ちでした。

 

 ところが、最近はこうした同時進行のケースが多い。一話完結の作品ならまだしも、連続ものだとドラマの決着が漫画の最終回へのもって行き方に影響します。

 

 それは『セクシー田中さん』に限らず、世の中すべてが急いでいて、ゆっくり勝負できなくなっていると感じますね。なにもかも瞬間で判断されてしまう」

 

 これには漫画原作の鮮度が高いうちに映像化を望む、制作者および出版元の思惑が絡んでくる。しかし、漫画家が格別愛着を持っている作品なら、連載が終わるまで待ってドラマ化する手もあったはずだ。里中氏はそう考えている。

 

「全部終わってから、芦原さんも一話ずつ関わりながら映像化するほうが、本当はよかったのかもしれませんね。連載執筆の作業を抱えつつ脚本を書くのは、頭の切り替えも大変ですし、その時点でかなり疲弊されていたのではないでしょうか」

 

 漫画家は、作品世界と向き合い、ただでさえ骨身を削っている。すこぶる想像力に富む代わりに内向きな性格で、世の中にうとい人も多いだろう。里中氏もデビューからしばらくはそうだった。

 

「一歩も外に出ないでできる仕事はないかと思い、漫画家になったぐらいですから(笑)。一人で閉じこもって静かに描いているほうが性に合っている人が多く、みなさん、交渉ごとは荷が重いんです。

 

 ただ、私は自分が本当に描きたい作品の企画を通すため、読者受けする作品も自ら編集者に提案するなど、出版社側と攻防も重ねてきたので、今があるんだろうとは思っています」

 

 里中氏は協会理事長として、著作権への理解を若い作家に訴えてきた。座談会でも強調していたが、本来、原作者はものすごく強いのだ。

 

 日本テレビは、2月15日、公式サイトで「これまで独自に社内調査を行って」きたとしながら、新たに外部有識者も入れ、「ドラマ制作部門から独立した社内特別調査チームを設置する」と宣言した。れっきとした第三者委員会ではないのが気にかかるが、里中氏はいま、とにかく日テレの「調査結果を真剣に待ちたい」という。

 

「芦原さんが創作上の迷いから死を選んだなら、止められたかは疑わしい。だけど、ドラマ制作の過程で何らかのプレッシャーが加えられた結果なのは確かでしょう。そこが非常に残念なんです。芦原さんと同じように、創作以外の問題で追い込まれている若い作家はたくさんいます」

 

 著作権者と二次創作者間のトラブルを未然に防ぎ、双方がつねにWin-Winとなるような関係を構築するにも、まずは建設的な話し合いによる相互理解が不可欠だ。

 

 ドラマ版『セクシー田中さん』制作において、両者間でどんな話し合いが持たれたのか、包み隠さず明らかにしてほしい。

 

文・鈴木隆祐

( SmartFLASH )

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