「今まで演じた役が、次に自分が誰かを演じる際の取っかかりになってくれます。これは、私の財産なんです」
だが、難点も。撮影期間は役になりきっていることも多く、連続テレビ小説『花子とアン』(2014年、NHK)で蓮子(仲間由紀恵)をいじめる女中を演じていたときは、「すごく怖い顔をしていた」と笑う。
「撮影の合間にインタビューがあって素の私で受けたのですが、オンエアを見たらこんなに怖い顔をしていたんだと驚きました。
あのころは、素に戻ったらせっかく掴んだ役が逃げてしまうのではないかという怖さがありました。なので、なるべくふだんから役のままでいた気がします」
それも最近は変わってきたと感じている。
「さまざまな役を経験して、最近は以前より役の出し入れが上手にできるようになってきたような気がします。それでもまだ不器用ですけどね。
たとえば、今、ドラマ『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)で共演しているノリさん(木梨憲武)。ノリさんは、笑っているだけなのに切ない。切ない顔を我慢しているだけで泣けてきちゃうんですよ。そこにいるだけで、計算や準備を超える芝居を見せてくれる。あんな演技をしてみたいと思います」
第三舞台の楽屋で入団を直談判してから43年がたった。年齢を重ねるごとに評価は高まっている。
「最近、30、40代の女優さんから、『筒井さんを見ていると元気になる』と言われることが多くて……。遅咲きの私を見ていたら頑張ろうと思うらしく、これを聞いたときはすごく嬉しくなりました。これまでやってきたことは間違っていなかったなって。
演技に対する気持ちは、初舞台のときから変わっていません。おもしろいと思ったら役の大きさなど関係なく演じたくなるし、役になりきるために外見から変えたりする。この気持ちは、これからも変わらないです」
4月からも連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)など出演作の放送が多数控える。そんな彼女が今後演じてみたい役は「いろんな “変な人” 」だ。
「男性は変わっているおじいちゃんなど “変な人” の役がいっぱいありますが、女性は意外と少ないんですよ。 “変な人” ほど、すごく人間味がある気がするんですよ。そんな人間らしい役を演じたいです」
この日、彼女が食べた好物のように、手間ひまをかけ熟成した演技は、人間味があふれ、奥深い。
つついまりこ
早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」で初舞台。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016年)の演技力が評価され、多数の映画祭で主演女優賞に輝いた。主演作品『よこがお』(2019年)で芸術選奨映画部門文部科学大臣賞受賞、全国映連賞女優賞受賞。Asian Film FestivalのBest Actress最優秀賞受賞。2023年は主演映画『波紋』が全国で公開。現在ドラマ『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)、Netflixオリジナルシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』に出演中
【池尻おわん】
住所/東京都世田谷区池尻2丁目26-7 岡田ビル1階
営業時間/17:00~22:00(L.O. 21:00)
定休日/月曜(連休あり)
写真・伊東武志
スタイリスト・齋藤ますみ
ヘアメイク・高橋 亮
衣装協力・RE SYU RYU