連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)では、伊藤沙莉が女性弁護士の草分けを熱演している。本誌は、各ジャンルのパイオニアたちに「矜持と苦労」を直撃した。前例のない世界に飛び込んだ彼女たちには、共通する “強い思い” があった――。
日本人女性初の石工である上野梓さん(42)は、愛知県岡崎市にある「上新石材店」の二代目だ。
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「石職人の修行を積んだ父が初代です。石材店を開業し、『男の子が生まれたら跡取りに』と夢見ていたのですが、先に生まれた2人は、ともに女の子。『3人めこそは……』と望まれて誕生したのが、三女の私でした。石屋は男の世界。父は自分の代で終わるか、3人のうち誰かが結婚した婿が継いでくれることもあるか、と思っていたようです」
上野さんは幼少期からずっと、父と母が家業に懸命に励む姿を間近で見てきた。
「社会人になっていく姉2人が石屋に関わる気配がなかったので、『両親が築いてきたものをこのままなくしたくない』という理由で、高校生のときに継ぐことを決意しました」
昼は父のもとで修業。夜は職業訓練校で学び、2003年に技能五輪で部門3位に入賞した。
「女性として初めての石工というおかげで、石製品というものを一般の方に知っていただく機会があったり、私の姿を見て『自分もがんばろうと思った』というお声をいただいたりすることもあります。最初はバッシングもありましたが、業界に受け入れてもらえるように、私なりにさまざまな努力をしました。職人としての実力をつけることを第一に、組合活動に積極的に関わったり、“飲み二ケーション”で人間関係の構築したりし、“女だから”ではなく、人として、石屋に取り組む覚悟と姿勢を見てもらえるように努力しました」
上野さんへのバッシングは数年でなくなり、いまではすっかり仲間の一員として受け入れられているという。現在は、新しい作品づくりと、業界のPR活動に尽力する。
「石といえば、庭灯篭や墓石というイメージですが、それだけではなく、石をもっと身近なものにしてもらいたいと思っています。かわいい動物の小物など、若い人やお子さんにも興味を持ってもらえて、ギフトにも使用できる作品を、と心がけています。たとえば、亡くなったペットの写真をもとに、石でそっくりに作る『メモリアルペット』という立体彫刻は、需要を多くいただき、作り続けています」
お墓を建てたり、通路の石を張ったりといった現場仕事にも奔走しながら、岡崎の石製品を広く知ってもらうための展示会の企画などもおこなう。石の新たな可能性を探る日々だ。