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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』山口洋子さん(享年77)ーー「冬美は化けたね」……田舎育ちのイモ娘にとっては最高の褒め言葉
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.04.13 06:00 最終更新日:2024.04.13 06:00
ーー猪ちゃん、冬美は化けたね。
言葉をオブラートで包むことなく、ストレートな感想をそのまま口にされたのは……五木ひろし先輩を見出して名づけ親となって世に送り出し、プロデューサーも務められた作詞家の山口洋子先生です。
猪俣公章先生とはおうちも近く、親しくされていた洋子先生は、ちょいちょい猪俣先生のお宅にいらしては、仕事の話から雑談まで、時には真剣な顔で、時には笑みを浮かべながら、何やらいろいろと話し込んでいらっしゃいました。
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初めて洋子先生にお会いした当時のわたしは、和歌山の田舎から出てきたばかりのイモ娘で、今よりはるかに太っていましたし、ブスッとした顔をしていましたから、洋子先生の目にどう映っていたのかは、想像に難くありません。
冬美にかけたいという猪ちゃんの気持ちは、よぉくわかる。うん、わかりすぎるくらい、よくわかる。でもね猪ちゃん、歌はともかく、さすがにあのコじゃちょっと無理があるんじゃないの……。
口にこそ出しませんでしたが、洋子先生のお顔には、はっきりとそう書いてありました。このコはデビューするんじゃなくて、ここでお掃除して、しばらく猪ちゃん の付き人みたいな仕事をして、いずれは田舎に帰って結婚したほうが幸せだと思うよ。
わたしの想像ですが、きっとそう思っていらしたんじゃないかと、モゴモゴモゴ(笑)。
ところがです、世の中、何が起きるかわかりません。
デビュー曲『あばれ太鼓』が80万枚の大ヒット、2曲めの『祝い酒』で『NHK紅白歌合戦』に初出場……洋子先生が思わず漏らしたのが冒頭の「猪ちゃん 、冬美は化けたね」という言葉……わたしにとっては、最高の褒め言葉でした。
作詞家であると同時に、直木賞作家でもあり、数多くの著名人が通った銀座の高級クラブ「姫」のママでもあった洋子先生は、それまで何千人、何万人という女性を見てこられた方です。
その先生に、「冬美は化けたね」と言っていただけたのですから、これほど誇らしいことはありません。一世一代、見事な化けっぷりです(笑)。
猪俣先生がお亡くなりになった後も、洋子先生はわたしのことを姪っ子のような感覚で温かく見守っていてくださり、ご自宅にお邪魔して、すき焼きをご馳走になったり、素敵なアクセサリーをいただいたりと、たびたび洋子先生のご厚意に甘えさせていただきました。
猪俣先生と洋子先生。お2人は、五木ひろし先輩の『千曲川』『ふたりの旅路』、内山田洋とクール・ファイブの『噂の女』をはじめ、数多くのヒット曲を生み出されています。
でも同時に、プライベートとお仕事の境界をきっちりと区別されるプロフェッショナルで、あやふやな感情でその線を安易に越えることはありませんでした。
猪俣先生から洋子先生に「今度、冬美に詞を書いてくれないか」と頼むこともありませんでしたし、洋子先生もその当時の坂本冬美の歌は、ご自身が書く詞の世界観とは違うと感じられていたのだと思います。
洋子先生から詞をいただいたのは、猪俣先生がお亡くなりになり、追悼アルバムとして出させていただいた『追伸~冬美こころの猪俣メロディー~』に収められている『流れ星』という1曲のみです。
もしかしたら、今のわたしにだったら「冬美に詞を書いてもいいわよ」とおっしゃっていただけたかもしれませんが…かなわぬ夢になってしまったのが心残りです。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『ほろ酔い満月』が好評発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋