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山下智久『ブルーモーメント』上質でおもしろいのになぜかチャレンジングじゃない…その理由は固めすぎた “守り” の姿勢に

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.05.01 11:00 最終更新日:2024.05.01 11:06

山下智久『ブルーモーメント』上質でおもしろいのになぜかチャレンジングじゃない…その理由は固めすぎた “守り” の姿勢に

『ブルーモーメント』会見に出席した山下智久

 

 とても丁寧に作られているドラマだと感じたし、ストーリーもちゃんと緊迫感があっておもしろい。けれど、こんなにも保守的なドラマもめずらしい。さすがにこれは、あまりにもガチガチに “守り” を固めすぎじゃないか?

 

 4月24日(水)にスタートした山下智久主演ブルーモーメント』(フジテレビ系)のことだ。

 

 山下にとって、旧ジャニーズ事務所を退所以来初となる、5年ぶりの民放連ドラ主演作。

 

 

 フジのドラマへの出演は、山下の代表作で大ヒットシリーズとなっている『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- 3rd season』(2017年)以来、7年ぶりだとか。

 

 山下が演じるのは気象学の天才・晴原柑九朗。近年多発している気象災害における被害拡大を防ぐため、内閣府直属のチームとして結成された「SDM」(特別災害対策本部)の気象班チーフ。災害現場に駆けつけて指揮を執る現場のリーダー的存在だ。

 

■『コード・ブルー』と『TOKYO MER』に酷似

 

『ブルーモーメント』が、なぜ保守的すぎると言わざるを得ないかというと、2つの大ヒットドラマを想起させる要素があまりにも多いからだ。

 

 ひとつめは先述した『コード・ブルー』シリーズ。

 

 緊急性の高い患者のもとへ医師たちがドクターヘリで駆けつけて救命するストーリー。2008年に連ドラの第1期、2010年に第2期、2017年に第3期が放送され、いずれも高視聴率を獲得。2018年公開の劇場版は、興行収入93億円を記録したメガヒット作だ。

 

 そんな『コード・ブルー』シリーズと、職業は違えど現場に駆けつけて命を救うアウトラインは同じ。極めつけは、『ブルーモーメント』でも山下演じる主人公はヘリで災害現場に向かっていたので、既視感は否めない。

 

 また、両作とも主人公は “クールで不愛想だが強い信念を持っている” タイプなのも似ている。

 

 そもそも『ブルーモーメント』は同名漫画を原作とした作品なので、ドラマ制作陣が名づけたわけではないにしても、「ブルー」というタイトルが入っている時点で “狙っている” ようにしか思えない。

 

 ふたつめは鈴木亮平主演の『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)。2021年に「日曜劇場」枠で連ドラ化され、2023年公開の劇場版は興行収入45億円を記録した大ヒットシリーズである。

 

『TOKYO MER』は、最新医療機器を備えるオペ室搭載の大型特殊車両で、災害や事故の現場に急行し、負傷者たちを救う医療チームの物語。『ブルーモーメント』も災害現場で救命するし、なにより気象予測をおこなえる大型特殊車両を、現地の基地のようにしている点が似ているのだ。

 

『TOKYO MER』は放送当時からスーパー戦隊っぽいとの声が多数あがっていたが、『ブルーモーメント』も2台の特殊車両が「トランスフォーム」(劇中で実際にこの言葉が使われる)して合体し、基地のように運用されるので、こちらもスーパー戦隊味がある。

 

 また、『TOKYO MER』は東京都知事が立ち上げたのだが、『ブルーモーメント』も内閣府・特命担当大臣が創設しており、人命救助に情熱を燃やす政治家の肝入りプロジェクトという点も類似。

 

 SNSなどでもこういった点は多々指摘されており、『コード・ブルー』と『TOKYO MER』のいいとこ取りをしようとしているように思える。

 

■正しい価値観同士の衝突で胸を打つ物語に

 

 地上波テレビでは今夜第2話が放送されるのだが、フジテレビの有料配信サービス「FOD」では第2話が先行配信されているため、筆者はお先に視聴済み。

 

 第2話までの感想として、冒頭でお伝えしたとおり、丁寧に作られたおもしろいドラマだと感じている。雪崩シーンなどのCGにチープさは感じないし、緊迫感を損なわないダイナミックな映像となっており、ストーリーに引き込まれた。

 

 また、山下演じる主人公とレスキュー隊員が方針の違いでたびたび衝突するのだが、どちらも自分の信念を貫こうとする姿に胸を打たれる。

 

 第1話では、雪崩に巻き込まれて遭難した10人を救い出すミッションで、9人めまで順調に救助。最後の1人は崖っぷちで気を失っており、ベテランのレスキュー隊員が助けにいくも、吹雪によって2人とも崖下に転落して二重遭難に。第2話では、この2人をどのように救出するかというストーリーになっていく。

 

 若手ながら優秀なあるレスキュー隊員は、そのベテラン隊員に憧れているのだが、だからこそ「レスキューの使命は自分自身が生きて帰ること」という教えを守り、リスクの高すぎる救助をあきらめ、撤退の決断を下す。

 

 この隊員にとっては、おそらく自分の命を投げうってでも助けに行くほうが簡単で、師匠のような存在のベテラン隊員の救助を断念するほうが、よほど難しいはず。そんな苦渋の決断を下した隊員を前にしても、天才・晴原は2人をなんとしても救助するというスタンスを崩さない。

 

 どちらの考えも決して間違っていないからこそ、正しい価値観同士の衝突は見応えのあるものとなっていた。

 

■チャレンジングな作品にできなかった理由

 

 このようにクオリティの高いドラマになっているだけに、『コード・ブルー』と『TOKYO MER』に似すぎている点がもったいないとも感じるのだ。

 

 人命救助ものはドラマの一ジャンルとして確立されており、ある程度ストーリーや設定が似てしまうのは致し方ないだろう。だが、『ブルーモーメント』に関しては、意図せず似てしまったわけではなく、明らかに意識的に『コード・ブルー』と『TOKYO MER』に寄せていったように思える。

 

 せっかく上質なものが作られているのに、べつの作品にそっくりだとの話題ばかり注目され、うがった見方をされてしまうのは残念。

 

 山下には、旧ジャニ退所後の主演作としてNHKの連ドラ『正直不動産』シリーズ(2022年、2024年)があり、近年の代表作になっている。『正直不動産』はオリジナリティのある設定でコメディ要素もあり、山下の新境地となるドラマになった。

 

 それに比べると、『ブルーモーメント』は冒険せずに手堅くヒットを狙いにいったように思えてしまう。

 

 民放テレビ局トップの座にいたのは遠い昔で、凋落して久しいフジテレビにとって、人気のある山下の7年ぶり主演作でコケるわけにはいかず、チャレンジングな作品にできなかったのかもしれない。だが、それにしたってガチガチに “守り” に徹しすぎなのだ。

 

 ――今夜、第2話が放送される『ブルーモーメント』。上質でおもしろい作品なのは間違いないので、今後の展開で独創性を発揮し、『コード・ブルー』や『TOKYO MER』と差別化を図っていってほしい。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

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