ラブドールの老舗メーカーであるオリエント工業が、8月21日、事業終了を発表した。同社のホームページで《突然になりますが創業者であり、長年会社を牽引して参りましたオリエント工業代表の土屋日出夫が、体調を優先することを決断し、引退を決定しました。私達の会社を支え、信じて下さったすべてのお客様、パートナーに心から感謝申し上げます》と明かした。
本誌は2015年、都内にあるラブドールの製造工場に出向き、土屋社長のインタビューと、ラブドールができるまでの工程を取材している。当時、担当した記者がこう述懐する。
「土屋社長は、もともと流通していた “南極◯号” という、両手・両足を広げて、口をポカーンと開けた浮袋のようなダッチワイフを見て、もっと品質のいいものを作りたいと思い、1977年に同社を創業したそうです。社名の『オリエント』の由来は、日出夫=陽が昇るからでした。
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取材当時のラブドールは、1体約60万円と高価で、ボディは10種類、顔は36種類のなかから好みのものを選べ、さらに胸の大きさ、乳首の色、ヘアの量と色も選べました。
ボディは型にシリコンを注入して作成しますが、実際に人間の型から取ったリアルなタイプもあり、手には手相やシワもくっきり。手を握ると、本当に女性と手をつないでいる感覚に陥るほどでした。
頭部に表情を描き入れていく絵描き師は、『仕上げていくうちに愛情もわきます』と話し、購入者のことを考え、ひとつひとつ丁寧に描き入れている姿が印象的でした。購入者は20~80代と幅広く、70代、80代の高齢者も多いそう」
もともと土屋社長は、ラブドールを障害を抱える人たちに向けて開発した。その後も、ドール愛はとどまることを知らず、次々に新技術を投入して、彼女たちの “成長” を促した。現在では、視線を動かすタイプや、好みの香りをつけることも可能になっている。
「ラブドールをお客さまのもとに届けるときには、きちんと下着をつけて指輪をはめて送ります。お嫁入りと同じだね。お客さんにも大事にしてもらって、うちでも大事にする。
どうしてもラブドールを処分しなくてはいけなくなった場合は、“里帰り” という名目で引き取り、年の暮れにまとめて都内のお寺で供養してもらっています」(土屋社長)
漫画家・イラストレーターとして活躍するみうらじゅん氏は、過去にインタビューで、同社のラブドールを購入したと答えており、約70万円した「エリカさん」は、秘書として取材などに “同席” してきた。同社の業務終了には、みうら氏も呆然としていることだろう。
東京・上野にあるオリエント工業のギャラリー兼ショールームは9月20日に、製造工場は10月20日で終了する。同社から生まれたラブドールが、今後も “嫁入り先” で大事にされることを祈りたい。
( SmartFLASH )