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『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』ガンプラで育ったドイツ人監督が描く戦場のリアル「白い悪魔」を目撃せよ
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.10.20 06:00 最終更新日:2024.10.20 06:00
Netflixにて世界独占配信中のガンダムシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』。一年戦争中のヨーロッパ戦線を舞台に、その最前線に投入されたジオン公国軍レッド・ウルフ隊隊長のソラリの視点から連邦軍との描いたミリタリータッチの作品だ。
今回、監督に起用されたのは、ガンダム作品初の外国人監督となるドイツのエラスマス・ブロスダウ氏。また、アメリカを拠点に活動する脚本のギャビン・ハイナイト氏、キャラクターデザインのマヌエル・アウグスト・ディシンジャー・モウラ氏が参加。3DCGは日本のスタジオ『SAFEHOUSE』が担当するなど、各国のクリエイターの力を結集した作品になっている。3年半にわたる制作期間には“多国籍” ゆえの苦難もあったという。
ブロスダウ監督、アニメーションプロデューサー/音響監督の由良浩明氏、プロデューサーの彌富健一氏に話を聞いた。
彌富氏「当初から本作はフルCG作品の予定でした。そこで、Netflixのプロデューサー桜井さんから『最適な人物がいる』と紹介されたのがブロスダウ監督だったんです。制作に当たり、過去の『ガンダム』作品の英語のローカライズはどのような表現を使っていたかという部分まで、すべてチェックしました。用語の言い方ひとつとっても、統一しないといけないですからね」
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由良氏「制作スタッフはそういった部分も全力で取り組んできました。ただ、スケジュールに追われるあまり、シャア専用ザクのことをザク専用シャアって言ってたんです。これは忘れられない(笑)」
彌富氏「やっぱり、スケジュール。スケジュールがなかなか思い通りに進まなかったです(笑)」
ブロスダウ監督「日本語、ドイツ語、英語、フランス語……。制作スタッフの主要言語がバラバラなので、それぞれの意思を正確に伝え合うことも大変でしたね。ニュアンスひとつでも、まったく違う伝わり方をしてしまうことがありましたから」
ブロスダウ監督は、日本のアニメである「ガンダム」をどう思っていたのか。「ガンダム」との出会いは監督が小学生のときだったという。
ブロスダウ監督「ドイツのトイショップで『機動戦士Vガンダム』(1993~1994年)のプラモデルを手にしたんです。『ガンダム』という作品自体知らなかったのですが、それから大ファンになりました。ですから、一番好きなモビルスーツはヴィクトリーガンダムです。あと、あえて選ぶならサザビーも大好きですね。
どの作品も好きなのですが、一番好きな作品は『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989年)です。『復讐のレクイエム』でも意識したモビルスーツの巨大さ、一個人から見た戦争が良く描かれている素晴らしい作品だと思います」
『復讐のレクイエム』では、すべての作画がフルCGで行われている。ゲーム開発などで用いられるソフトウェア「Unreal Engine 5(アンリアルエンジン5)」を活用して、どのような新たな「ガンダム」世界の構築を目指したのだろうか。
ブロスダウ監督「CG作画の場合、最初のモデリングデータを作るのが、手描きよりも遥かに大変です。ただ、CG作画の利点として、脚本の変更や演出に合わせて、カメラアングルなどの変更がより楽になるという利点があります」
本作ではモビルスーツや戦車のような兵器だけでなく、登場人物もすべてCGで描かれている。
ブロスダウ監督「人物がCGで描かれたガンダム作品には『MS IGLOO』がありますが、今回私が意識したのは、あまり写実的になり過ぎないという点です。もちろん、実写のようにリアルに人間を描くことも、今のCG技術なら可能です。ただ人物をCGでリアルに描きすぎても、それを劇中でいざ動かすと、見ていて余り気分の良いアニメーションとはならないことが多いのです。そのさじ加減は工夫しました。
モビルスーツや戦車などのメカに関しては、とにかくリアルに表現したいというのがありました。単にメカにリアルな動きや細かなディテールを描きこむということではなく、戦場での兵士との対比など、スケール感をまず大切にしました」
彌富氏「CGは限界がないんです。時間をかければディテールは無限に描きこめます。ただその分、データをアニメーションとして動かすときに動きが重くもなります。スムーズな動きで見せるために、ディテールの描き込みを(細かくならないように)あえて調整している部分もあります」
CG技術で新たな命を吹き込んだモビルスーツも本作の魅力のひとつだ。
ブロスダウ監督「一年戦争の地上戦ということで、登場させられるモビルスーツは限られています。そこはバンダイナムコフィルムワークスと相談しながら進めていきました」
新デザインのザクIIやガンダムEXは「ガンダム」ファンへのサービス的な側面もあるという。
ブロスダウ監督「ザクやガンダム、ジムなどのモビルスーツはデザインを大きく変えずリファインして描いています。みなさんがガンプラを自由に改造するように、戦場でこのようなアレンジがありえたかもという部分を考えたんです。この作品を観たファンの方がさらにインスパイアを受けて、ザクやガンダムを作ってくれたら嬉しいです」
こうして完成した『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』は世界190以上の国や地域で同時配信されている。
由良氏「世界配信ということを前提とした苦労もありましたね。欧米で一番人気となった『ガンダム』作品って、『新機動戦記ガンダムW』(1995~1996年)なんです。
今回は『UC(宇宙世紀)』の『機動戦士ガンダム』の0079年のお話。そこで一番気にしたのが、ミリタリー感の表現の仕方ですね。海外での『W』人気は、兵器というよりも、ヒーロー的なキャラクター人気の側面があるので、その好みのギャップをどうするかは、悩みました。また、海外は日本と違い、退役、現役含め職業軍人が多く、戦争を経験している方も多い。そこでミリタリー表現の描き方はリアルにしたかったですね」
戦場におけるリアリティに関しては、ブロスダウ監督も「強く意識した」という。
ブロスダウ監督「視聴者も一緒に、主人公たちと戦場にいるかのような臨場感は表現したかったです」
彌富氏「(今作は)とにかく怖い『ガンダム』です。兵士の視点から見て、兵器や戦争が本当に怖いものとして描かれています。怖い強敵=ガンダムに敵対するジオン兵が、どのような心情で 対峙していくかっていう人間のドラマも見所です」
由良氏「やはり戦争をリアル描くってどういうことなのかを追求している作品です。モビルスーツの足元で戦っている兵士の気持ちとか、そういうところをしっかり映像で表現していって、ヒューマンドラマが描かれる。ガンダムに追われながら生き延びていくっていう恐怖も感じられる作品です」
ブロスダウ監督「ガンダムは『白い悪魔』と呼ばれていますが、ガンダムの悪魔的な強さを見ていただける作品になっていると思います」
クレジット
写真・福田ヨシツグ
( SmartFLASH )