「藤井風の『きらり』が好き。日本語が少しわかるので、読んだら歌詞がいいなって」
東京・新大久保の飲食店で、20代の女性従業員がそう教えてくれた。近年、世界を席巻するKーPOPに比べて劣勢のJーPOPだが、別の女性従業員もこう言って笑う。
「imaseの『NIGHT DANCER』は韓国ですごく流行っていますよ」
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『紅白』歌手である藤井の名前は知っているかもしれないが、imaseもSNSでの全世界累計再生数が100億回を超えた、大人気の日本人男性シンガーソングライターだ。
「私の肌感覚では、2年ほど前から、韓国でJーPOPが聴かれるようになりました」
と話すのは、日韓のエンタメ事情に詳しいbemyfriends Japanの金壮鎬(キム・ジャンホ)取締役だ。
「ちょうどそのころ、私がマネジメントをしていた韓国人歌手が、Official髭男dismの歌を口ずさんでいたんです。聞くと『YouTubeで見た』と。今はKーPOPの人気歌手たちがKing Gnu、あいみょんなどの動画をSNSで拡散するようになり、若者に急速に聴かれるようになっています」
エイベックスのグループ会社の元代表で、2023年にimaseが韓国のロックフェスに初出演した際は、仲介役を担った海外セレブエージェントの伊藤ショーン氏は語る。
「主催者側から、『ぜひ、imaseさんを』という強い要望があり、実際、本人も1万人を超える観客を前にすばらしいパフォーマンスを繰り広げてくれました。このときのように、ビジネスとして私のもとに、実際にブッキングの相談がくるようになったのはこの2、3年です。これまでも、人気のある日本人アーティストはいたんですけどね」
たしかに、新大久保の30代の韓国人男性からは、「亡くなってしまったけど、ZARDは今もよく聴きます。メロディも歌詞も、日本でいちばんいい歌だと思います」と、懐かしい名前が挙がっていた。
では、韓国に暮らす人たちは、どんなJーPOPを聴くのだろうか。30~50代の男性1000人にアンケートを実施。好きな日本人アーティストや曲を尋ねた!
アンケートで、断トツの1位に輝いたのが X JAPAN。前出の金氏も「韓国では昔から人気です」と言う。
「10代の多感なころに聴けて感謝している。パフォーマンスも歌唱力もすごいと思っていた」「アジアを代表するヘヴィメタルバンド。歌詞は叙情的なのに、音楽はパワフルで心を揺らす」「軍隊にいるときに聴いた」という声も(回答より。以下同)。
日本の音楽の流入が制限されていた時代でも海賊盤が流通し、愛聴されてきたという。
2位に入ったのは安室奈美恵。「魅力的なルックスと爆発的な歌唱力ですばらしいステージだった」「歌詞を読んだら、深い愛が感じられて好きになった」と、2018年に引退してからも、人気は健在だ。
3位にランクインしたのが歌心りえ。「誰?」と思った方もいるだろうが、韓国では歌番組『韓日歌王戦』で大ブレイク中の日本人歌手だ。金氏が解説する。
「ケーブルテレビの番組で、最高視聴率は15%以上。韓国で2桁の視聴率を取る歌番組はなかなかありません。歌心さんは歌がずば抜けてうまく、韓国のメディアや視聴者は驚いたはずです」
回答も「感情を込めた歌い方で、聴いていると心が楽になる」「歌い方が神秘的で歌唱力がある」と大絶賛の嵐だ。
「好きなJーPOPの曲」で5位に『雪の華』、6位に『道化師のソネット』がランクインしたのは、歌心が番組で歌ったから。公式YouTubeの彼女の歌唱動画の再生回数は、それぞれ740万回、600万回を超え、大バズりしている。
同7位の『ギンギラギンにさりげなく』も、番組で歌手の住田愛子が歌ったことによるランクインだ。
■4000枚のチケットが1分で完売…アニメの影響力は絶大
5位のSMAPはX JAPAN同様、1990年代から人気が高く、チョナン・カンの芸名で活動してきた草彅剛はソロでも10位に。
2023年12月に韓国公演をおこない、4000枚のチケットを1分で完売させたのが8位のYOASOBIだ。
「日本らしい曲調がユニーク」と、メロディにハマる声が多数寄せられ、好きな曲では「アニメ『推しの子』の主題歌として知りました」と、楽曲も3位にランクインした『アイドル』を挙げる回答が多かった。前出の伊藤氏が語る。
「YOASOBIさん以外にも米津玄師さん、Adoさんらは、日本のアニメで楽曲が使用されたことで、韓国で認知されました。アニメの影響力は絶大で、たとえば20年以上前に放送されていたある作品の主題歌を担当した歌手が、今でも南米で数千人規模のコンサートを開けるほどです」
10位に松田聖子がランクインし、楽曲でも『青い珊瑚礁』が2位に。
「NewJeansのハニがカバーしていたから」という声が多数。原曲もヒットチャート入りした。
日本語楽曲が全面解禁された2004年の元日、ソウルでライブを敢行した12位のTUBEは「夏にふさわしい、涼しく清潔な音楽だ」の評。
なぜか、17位には少女隊。
「1988年のソウル五輪のイメージソング『KOREA』を日本語で歌ったことが、今でも思い出に残っています」
深い絆があったのだ。
JーPOPが、韓国で空前のブームなのは事実のようだ。金氏は、それは一過性のものではないと語る。
「12月に藤井風さんがソウルで開催する約2万人規模のドーム公演は、すでにチケットが完売しています。KーPOPが日本で流行りだしたころと逆パターンで、 “日流ブーム” が起きつつあると感じます」
JーPOPが全面解禁されてまだ20年。どこまで盛り上がる!?
■歌心りえ 山あり谷ありの30年「主人の店でも歌い続けます」
1995年にデビューしてから、ユニットやソロで音楽活動をおこなってきましたが、なかなか軌道に乗らなくて。一度は実家に戻ったものの、音楽が諦められず、再び上京して音楽を続けてきました。
その後も声帯を壊し、やめようと思ったことはあります。それでも主人は「君には歌しかないでしょ」と背中を押してくれました。少しずつ自信を取り戻して歌えるようになったころ、韓国発のオーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』の話をいただいたんです。今まで自分が蓄積してきたものが評価されるなら、と思い切って挑戦したのがきっかけで、『韓日歌王戦』の出演に繋がりました。
まさか自分が韓国でブレイクするなんて夢にも思ってなかったですし、実感もなくて。でも、8月にソウルと釜山で開催したトロット・ガールズのコンサートで、熱狂的に喜んでくださるお客さんを目の前にしたとき、驚きと感動で胸がいっぱいになりました。
私の歌声には、51歳の今まで30年間の “山あり谷あり” の人生と経験があると思うんです。それが、聴いている皆さんに伝わったのかなと思うと、とても嬉しいし、歌ってきてよかったなと思います。
今後の夢は、韓国でソロコンサートを開くことです。もちろん、主人が経営するこの店でも歌い続けます。ここにも、韓国からファンの方がプレゼントを持って来てくださるんですよ。
写真・福田ヨシツグ、本誌写真部